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外国で商標登録をする方法

外国で商標登録をする方法

「海外で事業展開することになった」「日本から外国へ自社商品を輸出し、現地で販売することになった」

このような場合に、外国で安心して事業を行うためには、当該外国で商標登録をする必要があります。

日本でその商品名やサービス名について商標登録している場合であっても、日本の商標登録が有効なのは日本国内のみであって、自動的に外国でもその商標が保護されるということにはならないからです。

その他、「外国に製造拠点があり、そこから日本や他の外国に商品を輸出する」といった場面においても、当該外国で商標権を取得すべき必要性があります。

一般的に、商品に商標を付す行為や、その商標を付した商品を輸出する行為は「商標を使用する行為」となり、万が一、当該外国で他人が先に商標登録を取得してしまった場合には、当該外国で製造する行為や輸出する行為が商標権侵害となってしまうことになるからです。

では、外国で商標権を取得するにはどのような方法があるのかについて、その内容の概説と共に、そのメリット、デメリットについてご説明します。


この記事の著者
シルベ・ラボ商標特許事務所代表/株式会社シルベ・ラボ  代表取締役 / 弁理士 

1.外国で商標権を取得する方法

外国において商標権を取得するには2つの方法があります。

1つ目は、各国に対し、その国の代理人を通じて、その国の言語で、直接出願する方法です(各国直接出願)。

2つ目は、国際ルールであるマドリッド協定議定書に従い、英語で作成した1通の出願書類を日本国特許庁に提出することにより、加盟する複数国に一括して登録出願した効果を得ることができる手続方法です(マドプロ出願)。


2.各国への直接出願

商標権を取得したい国に直接出願をします。この場合、各国で商標出願手続きを代理することが認められている弁護士や弁理士といった現地代理人を通じて、その国の言語で、各国ごとに手続きを行います。

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この方法によって、各国で商標権取得のための手続を進める場合のメリットとデメリットは次の通りです。

【メリット】

  • (1)2、3ヶ国程度の少数の国でのみ保護を望む場合には、マドプロ出願をする場合に比べて、安い費用での対応が可能となる。
  • (2)各国の現地代理人を介して出願手続きをすることになるので、最新の法改正や現地のプラクティスに対応した手続きが可能となる。

特に、外国で出願する場合には、指定商品・役務の表記の仕方が日本と異なる場合があり、日本では商標登録が認められている商品・役務の表示であっても、「あいまいである(too vague)」「幅が広すぎる(too wide)」という理由で、登録が認められない場合があります。

マドプロ出願をする場合、基本的には日本での商標出願、商標登録を基礎にして国際登録出願をする必要があるところ、各国特許庁の審査ではそのままの商品・役務の表示では登録が認められないとの判断がなされるおそれがあります。

この点、各国直接出願による場合には、事前に各国の現地代理人にその商品・役務の表示について確認してもらうことができるため、各国のルールに基づいた商品・役務の表示での出願手続きが可能となります。

そのため、余計な対応手続が不要になって費用を抑えることができ、また、登録までの時間を短縮することが可能になります。

【デメリット】

  • (1)各国ごとに現地代理人が必要となるため、多くの国に出願する場合には高額となってしまうことがある。
  • (2)各国ごとに、各国の言語で、各国の手続に従って行わなければならず、商標登録後の期限管理も各国ごとにしなければならない。そのため、手続や管理が煩雑になり、また、各国での更新手続きにかかる費用も負担となってしまう。

3.マドプロ出願

日本での商標出願又は商標登録を基礎にして、英語で作成した1通の出願書類を日本国特許庁に提出することで、一度に複数の外国(締約国)へ出願することができます。

「マドリッド協定議定書」は、商標の国際登録制度を定めた国際条約で、2022年5月10日現在で112カ国が加盟しています。出願人は、商標の保護を求める国を自由に指定することができます。

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【マドプロ出願手続きの概要】

1.国際登録出願の基礎出願又は基礎登録

国際登録出願をするためには、日本国特許庁に係属している商標出願又は商標登録を基礎とする必要があります(商標法68条の2)。

(1)標章の同一

国際登録出願の標章は、上記の基礎出願又は基礎登録の標章と同一でなければなりません。

(2)指定商品及び役務の範囲

国際登録出願で指定することができる商品及び役務は、基礎出願又は基礎登録で指定している商品及び役務と同一又はその範囲内でなければなりません。

(3)出願人又は名義人の同一

国際登録出願の出願人は、基礎出願又は基礎登録の出願人又は名義人と同一でなければなりません。

2.国際登録出願の効果

日本国特許庁(本国官庁)を経由して国際事務局へ提出された国際登録出願は、国際登録日から関係締約国において、標章登録を当該関係締約国の官庁に直接求めていたならば与えられたであろう保護と同一の保護を与えられたものとなります。

【メリット】

  • (1)手続の簡素化
    マドプロ出願では、複数国で権利を取得したい場合、日本国特許庁に1通の出願書類を提出することにより、複数国に同日に出願した場合と同等の権利を有することになる。どの国を希望する場合でも英語で出願でき、また複数国分の出願手数料の支払も、国際事務局に一括して支払うことができる。
  • (2)費用削減
    出願人が保護を希望した指定国において、拒絶理由が発見されずに登録が認められる場合には、各国の現地代理人の選任は不要なため代理人費用は発生しない分、各国ごとに直接出願する場合よりも費用が安くなる。
  • (3)迅速な審査
    各指定国官庁は、拒絶理由を発見した場合はその旨の通知を、国際事務局から指定国への通知がされてから最大18ヶ月以内にしなければならないことになっているため、商標権を取得できるか否かの判断が早期にできる。
  • (4)管理の一元化
    マドプロ出願では、国際事務局における国際登録簿により権利関係は一元管理されているため、商標登録後の存続期間の更新や名義変更などの手続を国際事務局に対してまとめて行うことができ、各国毎に行う必要はありません。

【デメリット】

  • (1)マドリッド協定議定書に加盟していない国に対しては、マドプロ出願を利用することはできない。
  • (2)マドプロ出願をするためには、基礎とした日本の商標出願又は商標登録と同一の商標でなければならない。少しでも異なる商標について各国での登録を求める場合には、各国での直接出願をするか、まず日本で出願し、それを基礎出願としてマドプロ出願をする必要がある。
  • (3)指定商品・役務も日本の基礎出願又は基礎登録で指定している商品・役務と同一か、その範囲内でなければならない。
  • (4)国際登録日から5年間は、基礎となっている日本の特許庁へ商標出願又は商標登録されている商標が拒絶・取消又は無効となった場合、セントラルアタックといい、国際登録も取り消されることになる。この場合、3ヶ月以内であれば国際登録を各指定国への直接出願に切り替えることができるが、新たに現地代理人費用が必要となる。

4.マドプロ出願の利用状況

デメリットもあるマドプロ出願ですが、手続の簡素化や費用削減などという企業にとって大きなメリットがあることから、近年、広く利用されています。

日本国特許庁(本国官庁)に出願されるマドプロ出願の件数は、2018年以降、年間3100件前後で推移しています。

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(出典:特許庁 商標の国際登録制度(マドリッド制度)について〔出願実務〕


5.まとめ

各国への直接出願とマドプロ出願のどちらが良いかについて、一概に言い切ることはできませんが、費用を抑えつつ、簡易・迅速に各国での商標登録を取得することができる点はやはりとても魅力的です。

そこで、外国での権利化にあたっては、

1)出願しようとする国がマドリッド協定議定書に加盟しているか

2)出願する国の数

3)出願・登録の緊急性

4)出願にかけられる予算

などを考慮、分析して、最善の方法を判断すべきということになります。

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著者プロフィール

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潮崎 宗

シルベ・ラボ商標特許事務所代表/株式会社シルベ・ラボ 代表取締役 / 弁理士

上智大学法学部法律学科卒業。日本弁理士会関東会 中小企業・ベンチャー支援委員会。東京都内の特許事務所勤務を経て、2005年弁理士登録。

商標・ブランドに関するコンサルティングのほか、ベンチャー企業や中小企業の案件を中心に、国内及び外国での調査や出願、審判に関する手続、不正競争防止法・著作権に関する相談を行っている。各専門家との各々の強みを活かしたワンストップ体制で、知的資産の分析・調査の段階から、権利化、運用までを見据えたサービスを提供している。

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