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契約書の書き方 第23回 個人貸金等根保証契約書②

契約書の書き方 第23回 個人貸金等根保証契約書②

今回は、前回に続いて、中小企業の経営者等の個人が貸金等債務についての連帯保証契約を締結する場合に作成しなければならない、個人貸金等根保証契約書の解説を行います。


この記事の著者
弁護士(東京弁護士会所属)  林康弘法律事務所代表 

契約締結前の公正証書による保証意思の確認

第5条(公正証書による保証意思の確認)
丙は、本契約の締結に先立ち、民法465条の6第1項及び第2項に従い、令和○年○月○日付の公正証書にて、第1条の連帯保証債務を履行する意思を表示したことを確認する。

事業に係る貸金等債務についての保証契約については、民法465条の6以下に特則が設けられています。具体的には、保証契約の締結に先立ち、その締結の日前1か月以内に作成された公正証書で、保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じないものとされており、また、その公正証書の作成時に従うべき方式が定められています。

ただし、主債務者が法人である場合のその理事、取締役やこれらに準ずる者等(経営者保証の場合等)については、上記の公正証書による保証意思確認に関する規定は適用されないこととなっています(民法465条の9)。


請求の絶対効(特約)

第6条(連帯保証人に対する請求の絶対的効力)
甲の丙に対する履行の請求は、乙に対してもその効力を生じる。

令和2年4月1日より施行されている改正後の民法では、債権者の連帯保証人に対する履行の請求は、相対効(連帯保証人に対してしか効力を生じない)とされています(民法458条が準用する441条)。

これは、任意規定ですので、債権者としては、連帯保証人に対する履行の請求が主債務者に対しても効力を生じるようにするため、本規定例のような特約を設けておくことが考えられます。

これに対し、主債務者に対する履行の請求など、主債務の時効の完成猶予・更新事由については、連帯保証人にも効力が及びます(民法457条1項)。


主債務者の相殺権による履行拒絶の禁止(特約)

第7条(借主の相殺権による履行拒絶の禁止)
丙は、乙の甲に対する相殺権を主張することによって、連帯保証債務の履行を拒絶することができない。

民法457条3項は、「主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」と規定していますが、これも任意規定ですので、本規定例のような特約が可能です。特に、本コラムで取り扱っている個人貸金等根保証契約の場合、債権者(甲)は銀行等の金融機関であることが想定されますので、連帯保証人(丙)から、主債務者(乙)が甲に対して持っている預金債権による相殺を主張されるのでは、甲の乙に対する預金担保貸付が成り立ちません。そのため、上記のような特約を設けることとなります。
これに対し、主債務者は、連帯保証人の債権者に対する債権による相殺権を援用することはできません。連帯保証人には、連帯債務と異なり負担部分がないため、負担部分を前提とする民法439条2項(連帯債務者の一人が債権者に対して債権を持っており、相殺権を有する場合、その連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができるとする規定)は、連帯保証には準用されていません(民法458条)。


債権者による連帯保証人の債権との相殺

第8条(連帯保証人の債権との相殺)
甲は、本契約における主たる債務が弁済期を経過したときは、丙の保証債務と丙の甲に対する債権とを、その債権の弁済期が到来しているか否かにかかわらず、対当額で相殺することができる。

本規定例は、債権者と連帯保証人との間の債権債務について、債権者が受働債権の弁済期未到来の場合にはその期限の利益を放棄し、相殺権の行使によって保証債務の回収を図ることができることを定めたものです。

債権者及び主債務者の保証人に対する情報提供義務

本コラムの規定例においては条項を設けていませんが、民法上、保証人に対する情報提供義務が次のとおり定められています。これらは、強行規定ですので、契約書に規定がなくても、当然に従わなければならない法的義務です。

1 債権者 → 債務者の委託を受けた保証人(458条の2)

債権者は、委託を受けた保証人の請求があったときは、その保証人に対し、遅滞なく、主債務の元本及び主債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならないとされています。

2 債権者 → 個人保証人(458条の3)

債権者は、主債務者が期限の利益を喪失した場合、保証人(個人)に対し、その利益の喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければならず、この通知を怠ったときは、主債務者が期限の利益を喪失した時からこの通知を現にするまでに生じた遅延損害金については、保証人に請求することができません。

3 主債務者 → 事業のために負担する債務の個人保証人(465条の10)

主債務者は、事業のために負担する債務を主債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者(個人)に対し、①財産及び収支の状況、②主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況に関する情報、③主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容、に関する各情報を提供しなければならないとされています。

主債務者がこれらの情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができます。


弁済の充当

第9条(弁済の充当)
甲は、丙が保証債務を弁済する場合又は甲が前条の規定により相殺する場合において、その保証債務の全部を消滅させるのに足りないときは、甲が適当と認める方法により充当することができ、これを書面により丙に通知する。

債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき、どの債務に充当するか等の弁済の充当に関して、民法は488条から491条までの規定を設けています。

令和2年4月1日より施行されている改正後の民法では、490条において、合意による弁済の充当の規定が新設されました。すなわち、当事者間で弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従って弁済を充当する旨の明文規定が設けられました。本規定例は、その合意による弁済の充当として、債権者が適当と認める方法により充当することができること、及び、その内容を書面で債権者が連帯保証人に通知することを規定しています。


紛争解決(管轄合意)

第10条(管轄合意)
本契約に関して生じた紛争については、◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とし、裁判によって解決する。

紛争解決方法については、本コラムで解説するその他の契約書と異なる点はありません。実務上、本規定例のように、裁判による解決を想定した第一審の専属的合意管轄の規定(第10回:業務委託契約書〔準委任型②〕の紛争処理の項も参照)を設ける場合が多いと思います。

次回は、個人貸金等根保証契約に関連する問題として、事業に係る債務の保証人(経営者)が債務整理を行う場合を想定し、経営者保証ガイドラインの手続を利用して廃業する際の実務について、解説をします。

(第23回・以上)

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著者プロフィール

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林 康弘

弁護士(東京弁護士会所属) 林康弘法律事務所代表

中央大学法学部法律学科卒業。慶應義塾大学大学院法務研究科修了。東京弁護士会民事訴訟問題等特別委員会副委員長。常葉大学法学部非常勤講師。東京都内の事業会社、法律事務所等で勤務した後、弁護士となり、企業法務、民事事件等を幅広く取り扱っている。
著書として、中島弘雅・松嶋隆弘編著『金融・民事・家事のここが変わる!実務からみる改正民事執行法』(ぎょうせい、2020年、分担執筆)、上田純子・植松勉・松嶋隆弘編著『少数株主権等の理論と実務』(勁草書房、2019年、分担執筆)、民事証拠収集実務研究会編『民事証拠収集-相談から執行まで』(勁草書房、2019年、分担執筆)、根田正樹・松嶋隆弘編『会社法トラブル解決Q&A⁺e』(ぎょうせい、2018年追録より分担執筆)等がある。

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