まだ間に合う! 年末調整・令和2年度の「3つ」の変更点と電子化
令和2年(2020年)度の年末調整は、内容が大幅に変更されました。
給与所得控除の引き下げや基礎控除の改定などのほか、年末調整の電子化(ペーパーレス化)も始まりした。
本コラムでは、令和2年の年末調整の主な変更点について説明します。
令和3・4年については、リンク先にて紹介をしています。
こちらも併せてご覧ください。
令和2年度の年末調整、主な変更点はこの3つ
給与所得控除の引き下げ
給与所得控除は給与所得者に認められている控除で、給与所得を計算する際に、収入から差し引かれるものです。
給与所得 = 給与収入 - 給与所得控除
この給与所得控除が一律に引き下げられました。
例えば、年収600万円の人は、給与所得控除が174万円でした。令和2年度からは164万円になります。
そうすると、給与所得は上がりますので、これだけを見ると増税ですが、後述する基礎控除という別の控除を見直すことによりバランスを図っています。
【新旧 給与所得控除の比較】
令和2年度以降 給与所得控除 | 令和1年度まで 給与所得控除 | ||
---|---|---|---|
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
1,625,000円まで | 550,000円 | 1,625,000円まで | 650,000円 |
1,625,001円から 1,800,000円まで |
収入金額 × 40% - 100,000円 |
1,625,001円から 1,800,000円まで |
収入金額 × 40% |
1,800,001円から 3,600,000円まで |
収入金額 × 30% + 80,000円 |
1,800,001円から 3,600,000円まで |
収入金額 × 30% + 180,000円 |
3,600,001円から 6,600,000円まで |
収入金額 × 20% + 440,000円 |
3,600,001円から 6,600,000円まで |
収入金額 × 20% + 540,000円 |
6,600,001円から 8,500,000円まで |
収入金額 × 10% + 1,100,000円 |
6,600,001円から 10,000,000円まで |
収入金額 × 10% + 1,200,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) | 10,000,001円以上 | 2,200,000円(上限) |
参照:国税庁「給与所得控除」
基礎控除の見直し
基礎控除とは、誰にでも認められる一律の控除です。
令和1年度までは38万円の控除が認められていましたが、令和2年度からは、基本的に48万円に上がります。
ただし、合計所得が2,400万円を超えると段階的に下がり、2,500万円を超えた時点で、ゼロ円になります。
納税者本人の合計所得金額 | 控除額 |
---|---|
2,400万円以下 | 48万円 |
2,400万円超2,450万円以下 | 32万円 |
2,450万円超2,500万円以下 | 16万円 |
2,500万円超 | 0円 |
参照:国税庁「基礎控除」
給与所得だけで2,500万円を超える場合は、年収ですと2,695万円です。大多数の給与所得者は当てはまらないと思いますので、基本的には48万円と考えていいと思います。
所得金額の調整控除の創設
給与所得控除の見直しにより、年収850万円を超える人は、実質的に10万円を上回る控除額の引き下げとなります。そのような負担を考慮して、所得金額調整控除が新設されました。
具体的には、年収850万円を超える給与所得者のうち、次のいずれかに該当する場合、総所得金額の計算上、一定金額を控除するものです。
- 本人、同一生計配偶者、扶養親族のいずれかが、特別障害者に該当する場合
- 年齢23歳未満の扶養親族がいる場合
なお、所得金額調整控除額は以下のようになります。
所得金額調整控除額 = (給与等の収入金額※ - 850万円) × 10%
※給与等の収入金額が1,000万円超の場合は1,000万円
年末調整の電子化(ペーパーレス化)がスタート
ペーパーレス化のメリット
年末調整は、従業員自身が申告書に扶養状況や保険料等の金額を記入し、それを会社が受け取り、年末調整ソフトに入力して計算します。つまり、アナログに記入したものを、デジタル化するという作業を行っていました。
生産性が叫ばれる今日において、このような作業は非効率となったのでしょう。ついに、令和2年度より、条件付きですが、年末調整をペーパーレス化してもよいことになりました。
会社のメリット | 従業員のメリット |
---|---|
入力の手間が省ける |
控除証明書をなくした場合の再発行という手間が、そもそも電子なのでなくなる。 |
控除証明書データをインポートすれば、添付書類確認の事務が省ける |
|
記載誤りが減ると思われるため、従業員への問い合わせも減る |
|
申告書等の書類での保管が不要になる |
電子化のメリットを受けるのは、会社のほうが大きいです。アナログに書き記されたものをデジタル化する作業が省けるからです。
また、控除証明書データをそのままインポートしたものであれば、数字が変わることはないので、従来行っていた、控除証明書に記載された金額との付け合わせ作業もなくなります。
ペーパーレス化のデメリット
メリットがあればデメリットもあります。特に導入時は、その方法に関する周知、修得、習慣化に壁があったり、関係システム自体や、システム相互の対応が未成熟であるという影響が大きいと思います。
会社のデメリット | 従業員のデメリット |
---|---|
従業員にシステムの使い方を周知する必要がある。 |
全部電子化できないと、紙との併用になり、かえって手間がかかる。 |
全部電子化できないと、紙との併用になり、かえって手間がかかる。 |
参照:国税庁「年末調整電子化 ソフトダウンロード」
実際に年末調整の電子化をしてみた
電子化の方法などは、国税庁HPやその他の税理士先生のサイトなどでご紹介されていますので、ここでは実際に入力してみた感想を述べたいと思います。
入力してみて、よかった点と改善したほうがいいと思った点をまとめてみました。
よかった点 |
改善したほうがいいと思った点 |
---|---|
紙に書くよりも楽に感じた(同じことを入力する欄は、コピーできる) |
パソコンで年調ソフトを使えるようにするまでの、導入作業が複雑に見える |
保険料控除等証明書のインポートによって、(ほぼ)入力しなくてもよかった |
平成30年度分以前の住宅ローン控除が、電子により処理できない |
【よかった点1】書く手間が省ける。同じことを入力する欄は、コピーできる
電子化のメリットです。紙であれば、氏名や住所など、同じことを複数の紙に書いたりしますが、このような作業は一切ありません。
また、乱筆な筆者がきれいな字を書こうとすると、なぜか間違えてしまうことが多いですが、そのような事故もありません。
【よかった点2】保険料控除等証明書のインポートによって、(ほぼ)入力しなくてもよかった
まず、保険会社のサイトにアクセスして、自分の加入している保険の控除証明書データをダウンロードします。その後、年末調整ソフトから、ダウンロードしたファイルを選択し、インポートして終了です。
保険金受取人と続柄以外はインポートしてくれました。申告書に、控除証明書の内容と金額を記載する手間がなくなりました。
ただ、実務上は、何も記載せず、控除証明書のみを添付して提出しているケースがほとんどだと思いますので、従業員にとっては、実質的に手間が増えると思います。
【改善すべき点1】パソコンで年調ソフトを使えるようにするまでの、導入作業が複雑に見える
以下は、Windowsのパソコンの使用が前提です。Macも別の方法により使用可能です。
筆者は、国税庁HPからファイルを直接ダウンロードして、それを下記手順でインストールしました(Microsoft Storeからダウンロードするやり方もありますが、このほうがおそらく簡単です)。
まず、パソコンの設定を変更します。具体的には「開発者モード」に設定変更して、署名されたすべてのアプリをインストールできるようにします。
設定 → 更新とセキュリティ → 開発者向け → 開発モード → 「はい」を選択
次に、国税庁HPから年調ソフトの圧縮ファイルをダウンロードして、解凍したフォルダをCドライブ内に保存します。
保存したフォルダ内の「Add-AppDevPackage.ps1」というファイルを右クリックして、PowerShellで実行を選択します。PowerShellが実行された後に、選択を求められますので、「Yes」を選択して終了です。
国税庁のマニュアルを見ながらやったのですが、2通りの方法があるなかで、なぜか、複雑なやり方が最初に書かれています。読者の人は、より簡単なMicrosoft Storeからダウンロードするやり方をお勧めいたします。
【改善すべき点2】平成30年度分以前の住宅ローン控除が、電子により処理できない
これは衝撃的でした。住宅ローン控除申告書の記載は面倒なので、期待していたため。「あなたの住宅取得は平成31年以降ですか?それとも平成30年以前ですか?」の質問に対して「平成30年度以前」と答えたら、紙でやってくださいとのことでした。
個人的に感じた主な事項は以上です。今後、電子化の流れが加速すると思いますが、それにつれて利便性も向上していくものと思います。今後に期待したいところです。