雇用保険料とは? 対象賃金や令和4年の引き上げ後の計算方法も解説!
社会人であれば、何らかの理由で職を失うリスクが少なからずあるものです。
そのような場合に労働者を保護し、不利益を被らないようにするための制度が「雇用保険制度」です。労働者を一人でも雇用していれば、事業主に雇用保険への加入義務が生じます。
雇用保険制度に必要な「雇用保険料」は、事業主と労働者にそれぞれ保険料率が定められています。雇用する側もされる側も、雇用保険料について正しく理解したうえで、保険料を収めることが大切です。
この記事では、雇用保険料の基礎知識や対象賃金 、令和4年の引き上げ後の計算方法をわかりやすく解説します。
雇用保険料とは?
雇用保険料とは、雇用保険の適用を受けている事業場において徴収される保険料のことです。雇用保険に加入している事業の業種によって、課される保険料率が異なります。
一般的な業種の場合は、事業主の負担割合が8.5/1,000、被保険者の負担割合が5/1,000となります。なお、令和4年度は、雇用保険料率が前期(4月から9月まで)と後期(10月から翌年3月)で変わっている点に注意が必要です。
保険料は、毎月の給与から直接控除される形(源泉徴収)で支払われています。
雇用保険料の対象・対象外となる賃金
労働保険料の計算に含まれる賃金の種類には、次のようなものがあります。
- 基本給
- 賞与
- 通勤手当
- 家族手当
- 休日手当
- 労働基準法第26条に規定する休業手当
次のようなものは、賃金に含まれません。
- 休業補償費
- 退職金
- 慶弔に関する祝い金や弔慰金
- 解雇予告手当
- 生命保険の掛け金
- チップ
混同しやすい社会保険との違い
社会保険は労働者災害補償保険と同じ「労働保険」に分類され、次のような種類があります。
加入条件の一例 |
|
---|---|
健康保険 |
健康保険の適用を受けている会社に入社する者 |
国民年金 |
20歳の誕生日を迎えた者で日本に住所がある者 |
厚生年金保険 |
厚生年金保険の適用を受けている会社に入社する者 |
国民健康保険 |
20歳の誕生日を迎えた者で日本に住所がある者 |
介護保険 |
満40歳以上になること |
後期高齢者医療 |
満75歳を迎えること |
業種によって異なる雇用保険料
雇用保険率は業種によって、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに分類でき、それぞれの事業の区分に応じた保険料率を乗じて雇用保険料の額が算定されます。
3つに分類される業種
1. 一般の事業
「農林水産・清酒製造の事業」と「建設の事業」以外のすべての事業を行う事業場は「一般の事業」とされます。3つの業種のなかで最も保険料率が低いのが特徴です。
2.農林水産・清酒製造の事業
「農林水産の事業と清酒製造の事業」については、一般の事業とは異なる保険料率が適用されます。ただし、一部の農林水産の事業は、一般の事業と同じ雇用保険率を適用することができる特例があります。
3.建設の事業
「建設に関する事業」については、最も高い保険料率が設定されています。
なぜ業種によって保険料率が異なるのか
業種によって保険料率が異なるのは、次のような理由があるためです。
1. 就業状態が不安定になりやすい業種は保険料が高い
農林水産の事業や建設の事業は、「一般の事業」と比べて景気の影響を受けやすく、雇用が安定しにくい状況が続いています。そのため、一般の事業に比べて保険料率が高めに設定されています。
2. 失業給付・助成金が多い業種は保険料が高い
建設の事業は、建設の事業に限定した助成金制度などがあるため、他の事業よりも助成金の財源となる雇用保険料を多めに確保する必要があります。そのような背景から、一般の事業に比べて高めの保険料率が設定されています。
また、建設の事業は、現場の状況次第で離職者が大量に発生するリスクを抱える業種でもあります。その結果として、基本手当の支給が他の事業に比べて高額になることがあり、保険料率が高めに設定されている理由のひとつになっています。
令和4年から引き上げ! 雇用保険料の増額
令和4年度の雇用保険料は、前期(4月~9月)と後期(10月~翌年3月)の2回に分けて、段階的に保険料率を引き上げられることになりました。
具体的な保険料率の引上げ割合は、次の通りです。
【前期】
引き上げ前 |
引き上げ後 |
|
---|---|---|
一般の事業 |
9/1,000 |
9.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 |
11/1,000 |
11.5/1,000 |
建設の事業 |
12/1,000 |
12.5/1,000 |
【後期】
引き上げ前 |
引き上げ後 |
|
---|---|---|
一般の事業 |
9.5/1,000 |
13.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 |
11.5/1,000 |
15.5/1,000 |
建設の事業 |
12.5/1,000 |
16.5/1,000 |
引き上げの背景
令和元年までは雇用情勢が良好に推移しており、積立金残高も高い水準を維持していました。そのため、保険料率の水準も引き下げられていました。
しかし、令和4年度に入って雇用保険財政が非常に厳しくなりました。新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて、労使に係る負担を踏まえたうえで、段階的に保険料率の引き上げが行われることになったのです。
令和4年度の雇用保険料率
令和4年度の雇用保険率は、前期に0.5/1,000引き上げられましたが、実際のところは「二事業に係る保険料率」が引き上げられただけで、失業等給付に係る率の引き上げは行われませんでした。
後期になり、失業等給付に係る保険料率を4/1,000引き上げる形で、段階的な雇用保険率の引き上げを行う形を取っています。
【計算方法】雇用保険料の算出
雇用保険料の計算式は、「賃金総額×雇用保険率」で算定できます。実務においては、労災保険の保険料と一緒に計算を行うのが一般的です。
- 令和4年10月以降の雇用保険料の計算方法
例)一般事業に勤めるAさんの場合
額面給与額 |
30万円 |
賞与額 |
50万円 |
Aさんの賃金総額 |
30万円+50万円=80万円 |
- 雇用保険料の額
【前期】
80万円×9.5/1,000=7,600円
被保険者負担分:80万円×3/1,000=2,400円
事業主負担分:80万円×6.5/1,000=5,200円
【後期】
80万円×13.5/1,000=1万800円
被保険者負担分:80万円×5/1000=4,000円
事業主負担分:80万円×8.5/1,000=6,800円
雇用保険料についてのまとめ
雇用保険料の基礎知識や対象賃金、令和4年の引き上げ後の計算方法を解説しました。
令和4年に雇用保険料が引き上げられた背景には、雇用保険財政が非常に厳しくなったことがあげられます。保険料率は段階的に引き上げられているため、前期と後期で数値が異なる点に注意が必要です。
労働者を守る義務がある事業主はもちろんのこと、労働者も、なぜ雇用保険料を負担しているのかを考え、保険制度への興味・関心を持つきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
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