雇用保険の育児休業給付金とは? 給付条件や申請方法を解説!
育児のために休業している従業員に対して賃金が支払われるかどうかは、事業主の裁量に委ねられています。賃金が出ない、もしくは減給されてしまうと、従業員の生活に影響することもあるでしょう。
そのような状態を回避するため、雇用保険には「育児休業給付金」という制度があります。
この記事では、雇用保険の育児休業給付金の支給条件や申請方法をわかりやすく解説します。
雇用保険の育児休業給付金とは
育児休業給付金とは、雇用保険に加入している労働者を対象とした給付金の一種です。育児休業期間中に給与が一定以上支払われなくなった場合に、休業前の賃金に応じて給付金を受け取ることができます。
育児休業中の賃金を有給とするか無給とするかは、事業主の裁量に委ねられていますが、賃金が出ない、もしくは減給されてしまうと、従業員は収入が減るため生活が苦しくなってしまいます。育児休業給付金は、そのような状態を回避するために制定された制度です。
育児休業給付金の受給期間は、子どもが1歳になる誕生日の前日までです。保育所に入所できなかった場合など一定の事情がある場合は、子どもが1歳6か月または2歳になるまで延長できます。
父親と母親の両方が育児休業を取得する場合は、「パパ・ママ育休プラス」と呼ばれる制度により、1歳2か月まで期間の延長が可能です。
また、育児休業給付金に似た制度に、「出生時育児休業給付金」があります。決められた条件に沿って「産後パパ育休(出生時育児休業)」を取得するなど、要件を満たした人を対象に雇用保険から支給される給付金のことで、男性が育児休業を取りやすくすることを目的に制定されました。
育児休業給付金の給付条件
ここでは、育児休業給付金の給付条件を見ていきましょう。
1. 雇用保険に加入している被保険者
育児休業給付金は雇用保険制度による給付のため、雇用保険に加入していることが1つ目の条件です。
常用・パート・アルバイト・派遣など雇用の名称や形態にかかわらず、1週間の所定労働時間が20時間以上あり、31日以上の雇用見込みがあれば、原則として雇用保険の被保険者です。自営業者や雇用されていない経営者は、雇用保険の被保険者にはなれません。
2. 休業前の2年間に就業日数が11日以上の月が12カ月以上ある
2つ目の条件は、育児休業給付金は、育児休業の開始日までの2年間に、就業日数(賃金支払基礎日数)11日以上の月が12カ月以上あることです。「12カ月以上」という月数を満たしていない場合でも、当該期間中に第1子の育児休業や本人の疾病などで30日以上賃金の支払いを受けることができなかった期間がある場合は、受給要件が緩和されて支給要件を満たす場合があります。
また、就業日数(賃金支払基礎日数)11日以上の月が12カ月に満たない場合でも、賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の月が12カ月以上あれば受給できます。
3. 育休中の賃金が休業前の8割未満
3つ目の条件は、育休中の賃金が休業前の8割未満であることです。1支給単位期間(育児休業を開始した日から起算した1か月ごとの期間)において、休業開始時賃金日額×支給日数の8割以上の賃金が支払われている場合、育児休業給付金を受給することはできません。
「休業開始時賃金日額」は、原則として育児休業開始前6か月間の総支給額を180で除した額です。1支給単位期間の支給日数は、原則として30日です。ただし、育児休業終了日を含む支給単位期間については、その育児休業終了日までの日数になります。
賃金が休業開始時賃金日額×支給日数の8割未満であったとしても、支払われた賃金額に応じて支給額が減額されることがあります。
4. 育休中の就業日数が月10日以下
4つ目の条件は、育休中の就業日数が月10日以下であることです。育休中の就業が臨時や一時的なものであって、就業後も育児休業をすることが明らかであれば「職場復帰」にはならず、受給の対象となります。
また、就業日数が10日を超える場合であっても、就業時間が80時間以下であれば育児休業給付金を受給できます。就業した日数と時間には、在職中の事業所以外で就業した分も含まれます。
子が1歳6カ月になる日までに契約が満了にならない期間雇用者の場合
無期雇用労働者(契約期間の定めのない人)が育児休業給付金を受給するには、1~4の要件に加えて次の要件も満たす必要があります。
- 子が1歳6カ月までの間に労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
- 延長事由に該当し、子が1歳6カ月後の期間について育児休業を取得する場合は、1歳6カ月の休業開始時において2歳までの間に労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
育児休業給付金の申請方法
ここでは、育児休業給付金の申請方法を解説します。
申請に必要な書類
申請に必要な書類は、事業主側が用意するものと被保険者側が用意するものに分かれます。
事業主側が用意する書類
初回の育児休業給付金の申請に必要な書類は、次の通りです。
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書(未提出の場合)
- 育児休業給付受給資格確認票
- (初回)育児休業給付金支給申請書
- 店賃金台帳、労働者名簿、出勤簿またはタイムカードなどの育児休業を開始、終了した日、賃金の額と支払状況を証明できるもの
- 母子手帳の写しなど育児の事実、出産予定日及び出産日を確認できるもの
2回目以降は、次の書類が必要になります。
- 育児休業給付金支給申請書
- 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿またはタイムカード(初回の申請書に記載した支給対象期間中に支払われた賃金の額及び賃金の支払い状況、休業日数及び就業日数を確認できる書類)
被保険者側が用意する書類
育児休業給付金の申請は、事業主側と被保険者本人どちらが行っても問題はありません。ただし、被保険者だけですべての手続きを行うことはできません。最終的な受給資格の確認手続きは事業主が行う必要があるため、支給申請は事業主が行った方がよいでしょう。
申請にあたって、被保険者が記載しなければならない書類は次の通りです。
- 育児休業給付受給資格確認票
- (初回)育児休業給付金支給申請書
- 払渡希望金融機関指定届
他にも育児の証明書類として、母子健康手帳の写しが必要です。
申請の流れ
育児休業給付金を、事業主が申請する場合の申請方法を見ていきましょう。
- 育児休業給付金を受給するには育児休業を取得する必要があるため、事業主の管轄部署に雇用保険の被保険者が育児休業予定を伝えます。
- 事業主側、被保険者側それぞれで、先ほど説明した必要書類を準備します。
- 書類の準備ができたら、事業主側が事業所の所在地を管轄するハローワークに必要書類を提出します。
受給資格確認手続のみを行う場合の申し込みの期限は、初回の支給申請を行う日までです。
また、初回の支給申請も同時に行う場合の申し込みの期限は、育児休業開始日から4カ月を経過する日の属する月の末日までになるので注意しましょう。
育児休業給付金は、原則として一括申請ではなく、2カ月ごとに2カ月分をまとめて申請することになります。
育児休業給付金の支給期間
育児休業給付金は支給期間が決められていますが、条件によっては延長も可能です。詳しく見ていきましょう。
基本的な支給期間は子どもの1歳の誕生日前日まで
育児休業給付金の支給期間は、原則として育児休業開始日から養育している子が1歳になった日の前日までです(民法の規定上、誕生日の前日をもって満年齢に達したとみなされるため、具体的には1歳の誕生日の前々日まで)。ただし、子が1歳になる前に職場復帰した場合は、復帰日の前日になります。
育児休業の開始日は、女性と男性で異なるので注意が必要です。女性の場合は産後休業を終えてから引き続き育児休業を取得することが多いため、出産日から58日目となります。
労働基準法第65条で、出産した女性に対して、「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。」という産前産後休業が定められているのが理由です。
男性の場合は、産後休業の規定は設けられていないため、配偶者の出産日当日から育児休業が取得できます。
子どもが1歳6カ月または2歳まで延長可能
次のいずれかの理由により、子が1歳に達する日以降の期間に育児休業を取得する場合は、その子が1歳6カ月または2歳に達する日前までの期間が育児休業給付金の支給対象となります。
- 育児休業の申出に係る子について、無認可保育施設は除く保育所などにおける保育の実施を希望して申し込みを行っているが、その子が1歳に達する日後の期間について、当面その実施が行われない場合(あらかじめ1歳に達する日の翌日について保育所などにおける保育が実施されるように申し込みを行っている必要あり)。
- 常態として育児休業の申出に係る子の養育を行っている配偶者であって、その子が1歳に達する日以降の期間について子の養育を行う予定であった方が、以下のいずれかに該当する場合
- 死亡したとき
- 負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により育児休業の申出に係る子を養育することが困難な状態になったとき
- 婚姻の解消その他の事情により配偶者が育児休業の申出に係る子と同居しないこととなったとき
- 6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定である、または産後8週間を経過しないとき(産前休業を請求できる期間または産前休業期間及び産後休業期間)
育児休業給付金の支給金額
最後に、育児休業給付金の支給金額の計算方法や、上限・下限を紹介します。
支給金額の計算方法
育児休業給付の1支給単位期間ごとの給付額は、以下の計算式で求められます。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%
(ただし、育児休業の開始から181日目以降は50%)
正確な金額は、ハローワークに提出する雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書によって、休業開始時賃金日額が確定し算出されます。
この場合の休業開始時賃金日額は、原則、育児休業開始前6か月間の総支給額(保険料などが控除される前の額で賞与は除く。)を180で除した額です。
また、育児休業給付金における1支給単位期間の支給日数は、原則30日(ただし、育児休業終了日を含む支給単位期間についてはその育児休業終了日までの期間)になります。出生時育児休業給付金の支給単位期間は、休業期間の日数(28日が上限)です。
給付額には上限があり、育児休業期間中に賃金が支払われている場合は減額される可能性があります。
支給金額の上限・下限
現在の育児休業給付金についての賃金月額および支給限度額は、以下の通り上限額、下限額が決められています。育児休業給付金と賃金月額の支給限度額は、毎年8月1日に見直されています。
2022年8月1日からの賃金月額は、次の通りです。
上限額:45万6,300円
下限額:7万7,220円
支給限度額は、2022年8月1日から次のように変更されています。
- 育児休業開始から180日(支給率67%)
30万1,902円→30万5,319円 - 育児休業開始から181日目以降(支給率50%)
22万5,300円→22万7,850円
算出した金額が支給限度額を越えていた場合でも、一律限度額までの支給となります。また、算出した金額が下限額を満たさない場合でも、一律下限額まで引き上げられます。
雇用保険の育児休業給付金についてまとめ
雇用保険の育児休業給付金の支給条件や、申請方法を解説しました。
育児休業給付金は、育児中の従業員が生活に困らないようにするための大切な制度です。給付を受けるには、雇用保険へ一定の期間以上加入している必要があるなど、複数の要件があるため注意しましょう。
わからないことがあれば、勤務先の人事部や総務部にあらかじめ確認しておくことが大切です。
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