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第1回 中小企業がかかえる三重苦 -コロナ、人材不足、そして事業継承-

企業経営に女性力の活用を―不確実な時代に備えるー

著者:高岡法科大学 教授  野口 教子

第1回 中小企業がかかえる三重苦 -コロナ、人材不足、そして事業継承-

新型コロナウイルス感染拡大(コロナ・パンデミック)は、日本だけでなく世界経済に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもありません。

そのような中にあっても企業は、立ち止まることは許されず経営を進めて行かなければならないのです。

特に地方の中小企業経営は、そもそもコロナ・パンデミックがなくとも、いかにして生き残るのか?という課題をずっと抱えていたはずです。

そこで今回から4回にわたり、「女性力」をキーワードにその生き残り策を探ってみたいと思います。


企業数の減少

日本の企業数の99.7%を占める中小企業は、日本経済を支える基盤と言われていますが、企業数の減少傾向が続いています。

そこにはコロナ・パンデミックの影響もありますが、そのほかにもさまざまな課題を抱えていると言われています。

なかでも大きな問題として、事業継承問題人材不足問題が挙げられます。

日本の企業数は1999年以降減少傾向にあると言われています。

中小企業庁の「中小企業白書」[1]によると、ここ10年間でも約10,000社の減少となっています。

さらに「中小企業・小規模事業者」となると、1996年以降20年間で約120万社減少していると言われています。

実は「倒産」の数は2008年以降減少傾向にあるものの、「休廃業・解散」が2006年以降高い水準で推移しています。

このような状況の背景には、経営者の高齢化と、後継者不足が大きな理由として挙げられます。


事業継承問題

「自分の代で事業をやめるつもりである」という理由から、積極的に後継者を探すことを諦める場合もありますが、事業承継を望んでいながらも脆弱な経営基盤により、やむなく廃業を選択しているというケースも多くあるようです。

政府はそのような状況に対し、事業承継・引継ぎ補助金対策を実施し、円滑な事業承継・事業引継ぎ(M&A)を後押しするため、事業承継・事業引継ぎ後の設備投資や販路開拓等の新たな取組を支援するとともに、事業引継ぎ時の専門家活用費用等を支援しています。

また、事業承継・引継ぎに伴う廃業等についても支援しているのです。そうした事業継承問題に加えて、企業の強みである技能・技術の承継に関するコストや、近年注目を集めている環境配慮の必要性、働き方改革への対応など、さまざまな変化への対応が課題となっています。

政府の様々な対策にもかかわらず、それでも中小企業経営者の高齢化は進行する一方で、後継者の確保は相変わらず困難な様相が続いているのです。

さらに中小企業を取り巻く経営環境は、2年間に及ぶコロナ・パンデミックを含む自然災害の多発、原油・原材料価格の高騰、部材調達難、人材不足といった供給面の制約と、まさに三重苦という大変厳しい状況にあります。


人材不足問題

近年、我が国における生産年齢人口(15歳~64歳)が減少する中で人手不足は深刻化しており、とりわけ中小企業にとってはそれが常態化しています。

図表-1および図表-2は、2021年に日本商工会議所および東京商工会議所が全国47都道府県の中小企業6007社を対象に行った「多様な人材の活躍に関する調査」結果[2]の一部です。

図-1 中小企業における人手不足の推移

tyusyokeiei-column86_01.png

図-2 中小企業における今後3年の採用見通しtyusyokeiei-column86_02.png日本商工会議所・東京商工会議所「多様な人材の活躍に関する調査」調査結果より2021.9.30

人手不足は経営上の不安要素となっていて、「事業承継」とともに「人材の不足、育成難」を上げる企業の割合は年々上昇する傾向にあると言われています。

このような状況下で労働生産性を向上させていくためには、業務プロセスを見直すとともに、人材の確保・活用・育成等の人材に関する一体的な取り組みや、情報技術の利活用、生産性向上に資する設備投資等の取り組みを進めていくことが重要です。


女性力

ここでは、様々な取り組みの中でも「人材の確保」に焦点を絞り、解決策につながる重要な資源である「女性力」を取り上げてみたいと思います。

2017年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが、中小企業(中小企業基本法に基づく)30,000 社に対し実施した調査[3]で、「人手が大いに不足している」と答える企業ほど、女性とシニアの雇用拡大に積極的であるという結果報告があります。

上記 図表-2においても、「今後採用を増やす」対象として最も多くの企業が挙げたのは、「若年者」(66.3%)ですが、次いで「女性」(40.7%)となっていますが、その増加率は、「若年層(6.1%増)」より「女性(9.7%増)」の方が大きいことがわかります。

昨今、女性のリーダーシップへの参画ということが、企業の成長戦略のなかで語られることが多くなってきました。

もちろん、能力の高い女性が適切に配置されること自体、企業経営にプラスとなるのですが、加えて女性の経営への参画は、ダイバーシティ(多様性)経営やコーポレートガバナンスの強化につながると考えられているのです。

こうした少子高齢化を背景とした人手不足への対応や社会におけるダイバーシティの推進の下での女性の活躍という潮流の中、女性活躍を喚起する施策も次々と実施されています。

また、株主として企業の持続的成長に関心がある機関投資家も取締役会のダイバーシティに注目しており、女性取締役の割合をモニタリング項目とする機関投資家も増えている[4]ことでも女性力を必要としていることがわかります。


女性人材活用の重要性

近代における社会経済構造の変化は、女性人材活用の意義を変化させました。

1985 年の男女雇用機会均等法では、男女間の差別禁止、機会均等と格差是正といったことがクローズアップされました。

しかし少子高齢化時代に至った現在は、女性の労働参加促進、多様な人材活用による企業価値向上といった観点からの女性人材活用の重要性が叫ばれています。

必然的な社会的要請への対応として、企業の活性化、経営戦略として女性人材の活用が注目されているのです。    

コロナ禍は収束することなく続いています。そして異常気象や自然災害も多発しています。

将来予測が困難な不確実性の時代と言われるなかに女性ならではの視点や能力を活用することは、企業が生き残るための有効な対処法のひとつなのです。

特に中小企業の持続的な成長を支える原動力として、感性を生かした商品開発や女性ならではの仕事ぶりがいま求められているのです。

ここ2年にわたるコロナ・パンデミックを、従来から存在している課題を再考するきっかけとして捉え、その生き残るための策を次回以降「女性力」をキーワードとして考えていきたいと思います。


1 「2022年版 中小企業白書・小規模企業白書」(2022年8月1日アクセス)
2 日本・東京商工会議所「多様な人材の活躍に関する調査」結果概要(2022年7月20日アクセス)
3 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「人手不足下における中小企業の生産性向上に関する調査に係る委託事業」(2018年3月)調査報告書(2022年7月17日アクセス)
4 内閣府男女共同参画局「ジェンダー投資に関する調査研究」報告書(2021年)に詳しい。(2022年7月20日アクセス)


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著者プロフィール

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野口 教子

高岡法科大学 教授

高千穂商科大学大学院経営学研究科博士後期課程満期退学後、神奈川大学・東京理科大学(非常勤講師)、高岡法科大学准教授を経て現在に至る。

外部委員として、富山県行政不服審査会委員、砺波市行政不服審査会会長、高岡市男女平等推進市民委員会委員長、富山県自治研究センター理事などを務める。

研究分野は、会計学、経営分析を中心とした経営学

編著書として、『多文化共生時代への経済社会』(芦書房、令和4年3月)、『事業者のためのパンデミックへの法的対応』(ぎょうせい、令和2年8月)、共著書として『IFRSを紐解く』(森山書店、令和3年3月)、『会計学(第3版)』(森山書店、平成30年1月)、『大震災後に考えるリスク管理とディスクロージャー』(同文館、平成25年3月)、『工業簿記システム論』(税務経理協会、平成24年5月)などがある。

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