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第3回 人材としての「女性力」-価値ある地下資源の発掘-

企業経営に女性力の活用を―不確実な時代に備えるー

著者:高岡法科大学 教授  野口 教子

第3回 人材としての「女性力」-価値ある地下資源の発掘-

「女性力」の必要性は、単なる人手不足の解消のためではなく、人材不足を補うためのものでもあるのです。

会社が、女性のもつ能力の深さや広さ、いわゆる「女性力」をいち早く認識し獲得することが重要です。

第3回は、「女性力」が会社にもたらす魅力(メリット)はどこにあるのか、その魅力発揮のサポートとなる法律を中心に考えていきましょう。


女性力活用の必要性

生産年齢人口の減少が進む中で人口の約半分を占める女性力を活用していく必要性はますます高まっています。

これからの企業の成長を左右するのは、女性力にあると言っても良いでしょう。

地下に追いやられた女性がもつ能力を発掘し、そして充分に発揮できるようにすることが、企業成長へとつながっていくのです。

眠れる地下資源である女性力を掘り起こし、不確実な時代を生き抜いていくための術を考えていきましょう。


眠れる森の女性力

日本社会がかかえる深刻な問題のひとつに、「少子・高齢化」があります。

厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」によると、2000年に約119万人であった出生数は、2020年に約84万人まで減少し、80万人割れが目前に迫っており、少子化は政府予測より10年近く前倒しになりそうな状況となっています。

また高齢化についても、2040年時点で65歳の人は男性の約4割が90歳まで、女性の2割が100歳まで生きると推計されると発表されています。

そのような現代社会のなかで労働力を確保していかなければならない企業は、これまでの雇用ターゲットの幅を広げていく必要があります。そのターゲットが、シニアそして女性なのです。

図-1 男女別労働人口の推移

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図-2 男女別就業者の推移tyusyokeiei-column103_02.png

総務省統計局 労働力調査2022年データをもとに作成

図-1は、2000年~2021年における男女別の労働人口の推移に関するデータです。

労働力人口とは、「人口のうちどれくらいの人が働いているか」を指し、国の経済成長を推測する指標のひとつです。

また図-2は、同じく2000年~2021年における就業者数の推移です。いずれも女性は2020年を除きほぼ10年以上連続して増加を続けています。

その増加率は男性に比べ大きな変化率を記録しています。

総人口も生産年齢人口も減少しているのに、就業者数および労働力人口は増加しているのはなぜでしょうか。それは女性とシニアの雇用が拡大しているからなのです。

上記図-2からもわかるように、男性の就業者数は2008年~2018年にかけて減少(30万人)したのに対し、女性の就業者数は増加(282万人)を続けています。

図にはありませんが、65歳以上の就業者数は、男性では309万人、女性では207万人増加しています。

労働力となりうる生産年齢人口が減る中、これまで働いていなかったシニアと女性が労働市場に参入したことで、労働力人口が拡大したのです。

女性とシニアの雇用が拡大したのは、働き方改革を背景に、女性とシニアの雇用を活発化する企業が増えているためです。


埋もれた人材の発掘準備 -女性活躍推進法-

1986年に施行された「男女雇用機会均等法」以来、女性の社会進出は進んでいますが、残念ながら女性管理職の割合がまだまだ低く、補佐的な職務に従事する割合が多いのが現状です。

また2015年には、仕事で活躍したいと希望するすべての女性が、個性や能力を存分に発揮できる社会の実現を目指して、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、いわゆる「女性活躍推進法」が制定されました。

もともと、女性活躍推進法成立の背景には、現在および将来の人手不足、労働力不足の解消、就業を希望しているものの育児や介護を理由に働けない潜在的就業予備軍の存在、非正規雇用者であるがゆえの能力発揮への阻害、さらには、グローバル化やダイバーシティ(人材の多様化)への対応の必要性があったのです。

このように、女性が十分に活躍できていない現状を鑑みて、女性が働きやすくかつ長期的にキャリアを形成していけるように、国、地方公共団体、一般事業主に対して改革を求めた法律なのです。

この法律により、国や自治体、企業などの事業主には、女性の活躍状況の把握や課題分析を行ったうえで、数値目標の設定や行動計画の策定・公表などが求められているのです。

さらに2022年4月から、常時雇用労働者101人以上の中小企業にも女性活躍推進に向けた行動計画の策定などが義務づけられました(100人以下の企業は努力義務となります)。

これら計画の策定や見直しの際は都道府県労働局へ届け出が必要となるのですが、優秀な女性の採用促進や企業価値向上などの効果を期待し、一定の基準を満たした企業は、達成度に応じて3段階の「えるぼし認定」が与えられます。


ピンチをチャンスに!-中小企業が取り組むメリット-

女性活躍に取り組むことは、どんな経営効果が期待されるのでしょうか。いくつかを紹介します。

①業務効率化、生産性向上

たとえば、これまで固定化されていた役割認識への見直しを行うことで、女性が働き続けられる職場という認識が定着し、業務の効率化が期待できます。

また、社内全体における意識改革につながれば、限られた時間の中で成果を出す女性も増えることによって、残業時間を削減できることになります。

さらに、在宅勤務や時短勤務をはじめとする柔軟な働き方の浸透は、更なる業務プロセスの効率化や生産性の向上が期待できます。

すなわち、「女性力」というビタミン剤が注入されることにより、活性化が図られるのです。

②人材の確保と社内安定化

先に述べたように、少子高齢化によって生産年齢人口(15~64歳)の減少は著しく、労働力を確保することはどのような企業にとっても重要課題です。

しかし、採用市場においては大企業が優勢であり、中小企業においては他社との差別化を図ることさえも困難な状況にあります。

そこで、女性が活躍している企業イメージを与えることで、働きやすさを重視する多くの目、特に女性の目にとまりやすく、女性の応募数や採用比率の増加につながります。

今までは男性限定というイメージが強い業種、たとえば建設業や運輸業などで、雇用環境の整備により、女性が働きやすい職場になったことを積極的にアピールすることができれば、女性採用促進という一歩リードした差別化ができ、眠れる良資源を発掘することができます。

加えて、女性の活躍推進により育休制度や柔軟な働き方など各種制度が整備されることによって、従業員のモチベーションや満足度が向上し、離職率の低下にもつながることとなります。

③新市場の創造

多様な女性目線は、新たな商品・製品やサービスを次々と生み出す可能性を引き出してくれます。

すなわち女性目線が増えるということは、男性では見えなかった部分、気づくことが出来なかった部分にまで目が行き届くことでもあり、これまでにないアイディアが創造されるのです。

女性目線による企画・開発品やサービスは、業績アップの起爆剤になるかもしれません。

中小企業において、女性活躍の推進は上記以外にもメリットがあり、企業価値経営の向上につながるといえます。

ピンチをチャンスにする女性活躍推進に取り組むのはまさに今なのです。


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著者プロフィール

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野口 教子

高岡法科大学 教授

高千穂商科大学大学院経営学研究科博士後期課程満期退学後、神奈川大学・東京理科大学(非常勤講師)、高岡法科大学准教授を経て現在に至る。

外部委員として、富山県行政不服審査会委員、砺波市行政不服審査会会長、高岡市男女平等推進市民委員会委員長、富山県自治研究センター理事などを務める。

研究分野は、会計学、経営分析を中心とした経営学

編著書として、『多文化共生時代への経済社会』(芦書房、令和4年3月)、『事業者のためのパンデミックへの法的対応』(ぎょうせい、令和2年8月)、共著書として『IFRSを紐解く』(森山書店、令和3年3月)、『会計学(第3版)』(森山書店、平成30年1月)、『大震災後に考えるリスク管理とディスクロージャー』(同文館、平成25年3月)、『工業簿記システム論』(税務経理協会、平成24年5月)などがある。

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