有給休暇の繰越の上限は40日? 消滅の時期や計算方法を解説
有給休暇の取得は労働者の権利で、労働基準法によって定められています。正社員やアルバイト・パートなどの雇用形態に関わらず、一定の条件を満たした従業員が取得可能です。
年度内に消化できなかった有給休暇は翌年に繰り越すことが可能ですが、上限や時効があるので注意しましょう。
この記事では、人事や労務の担当者に向けて、有給休暇の繰越に関する基礎知識や消滅する時期、上限日数、計算方法をわかりやすく解説します。
有給休暇の繰越とは?
有給休暇の繰越とは、年度内に消化できなかった有給休暇を翌年に繰り越すことをいいます。ここでは、有給休暇を繰り越す際の上限や時効といった条件を確認していきましょう。
時効は2年
労働基準法第115条により、有給休暇の時効は2年と定められています。発生から2年を過ぎると時効となり、取得する権利が消滅してしまいます。
例えば、入社から6ヶ月後に10日間の有給休暇を付与された従業員が、年度内に6日間の有給休暇を消化したとします。残りの4日分は翌年に繰り越されることになりますが、時効は繰り越しから2年後ではなく、最初に有給が発生したタイミングから2年後になるので注意が必要です。
参考:e-Govポータル
繰越の上限は最大20日
有給休暇の繰越日数に上限は定められておらず、年度内に取得できなかった有給休暇(前年からの繰越分は除く)はすべて翌年に繰り越すことが可能です。
ただし、有給休暇は発生から2年度に時効を迎えて取得する権利が消滅するため、有給休暇を繰り越しできる日数は、その年に付与された有給休暇と同じです。
有給休暇の日数は勤続年数によって異なるため、勤続年数が2年半の社員であれば繰り越しできる有給休暇は最大12日、勤続年数が4年半の社員なら最大16日となります。
有給休暇の最大付与日数は20日であることから、「繰越の上限は最大20日」と考えることができます。
勤務年数ごとの有給休暇の日数
有給休暇は、要件を満たしていれば、正社員やアルバイトなどの区分に関わらず付与することが法律で定められています。付与日数は労働者の継続勤務年数と所定労働日数によって変わります。
有給休暇の付与日数は以下の通りです。
- 通常の労働者の付与日数
継続勤務年数(年) |
0.5 |
1.5 |
2.5 |
3.5 |
4.5 |
5.5 |
6.5以上 |
付与日数(日) |
10 |
11 |
12 |
14 |
16 |
18 |
20 |
- 週所定労働日数が4日以下で、週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数
|
週所定労働日数 |
一年間の所定労働日数 |
継続勤務年数(年) |
||||||
0.5 |
1.5 |
2.5 |
3.5 |
4.5 |
5.5 |
6.5以上 |
|||
付与日数(日) |
4日 |
169日~216日 |
7 |
8 |
9 |
10 |
12 |
13 |
15 |
3日 |
121日~168日 |
5 |
6 |
6 |
6 |
8 |
10 |
11 |
|
2日 |
73日~120日 |
3 |
4 |
4 |
5 |
6 |
6 |
7 |
|
1日 |
48日~72日 |
1 |
2 |
2 |
2 |
3 |
3 |
3 |
有給休暇の繰越日数を求める計算方法
繰越可能な有給休暇は当年度に付与された有給休暇で、前年からの繰越分は翌年には繰り越せません。
有給休暇を取得したときは、まず繰越分を使い、繰越分がなくなってから当年度に付与された有給休暇を使います。
上の内容を前提に、繰越日数を計算してみましょう。
当年度に付与された |
前年から繰越した |
当年度に取得した |
|
ケース1 |
20日 |
10日 |
8日 |
ケース2 |
12日 |
10日 |
8日 |
ケース3 |
20日 |
10日 |
15日 |
ケース1では、有給休暇の日数は30日、実際に取得したのは8日で22日分が未消化ですが、繰越できるのは当年度に付与された分だけです。そのため、翌年への繰越日数は20日となります。
ケース2は、ケース1と同様に計算して、当年度に付与された12日分が翌年に繰越されます。労働基準法で定められた有給休暇付与日数が20日になるのは、勤続年数6.5年以上の場合で、6.5年未満の場合は付与日数が少ないため、繰越できる日数も少なくなります。
ケース3では、最初に取得した有給休暇10日分は繰越分が充てられます。残りの5日分は当年度付与分を使うため残りは15日となります。残りはすべて当年度付与分となるため、繰越日数は15日です。
有給休暇の繰越の上限は40日?
先述の通り、有給休暇の繰越上限と最大付与日数は20日で、付与日から2年で時効を迎えます。そのため、有給休暇取得日数の上限は繰越と合わせて40日となります。
また、最大40日の有給休暇を取得できるのは、7年半以上の勤務をしていて、前年度と当年度に有給休暇を20日ずつ付与されている人です。
有給休暇の繰越における注意点
ここでは、有給休暇の繰越における注意点を解説します。
繰越した有給から先に消化する
従業員が保有する有給休暇には、当年度に付与されたものと前年から繰越したものがあります。実際に有給休暇を取得した場合、繰越分から先に消化するのが一般的です。
有給休暇の請求権は2年で時効になるため、先に時効を迎えるものから消化しないと従業員に不利益になるからです。
パート・アルバイトでも繰越せる
有給休暇を繰越できるのは、正社員だけでなくパート・アルバイトも同様です。有給休暇に関する時効の規定(労働基準法第115条)は、雇用形態に関わらず、すべての労働者に適用されるからです。
有給休暇の付与日数は労働日数によって決まるため、結果的に労働日数の少ないパート・アルバイトは付与日数が少なくなりますが、時効に関しては正社員と同じです。
就業規則によっては繰越方法が異なる
ここまで、労働基準法に基づいて有給休暇の繰越について解説してきました。労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものであり、企業が基準を上回る労働条件を設定しても問題ありません。
企業が就業規則で「有給休暇の時効を適用しない」と定めた場合、前年から繰越した有給休暇も翌年度に繰越できます。就業規則をきちんと確認したうえで、労務管理をしましょう。
有給休暇が消滅しないように消化率を上げるポイント
有給休暇が消滅しないように消化率を上げるポイントは主に以下の3つです。
- 休暇取得の奨励
- 従業員の業務量調整
- 計画的付与制度の活用
会社側でどのような工夫が必要か、詳しくみていきましょう。
休暇取得の奨励
有給休暇取得の促進には、取得しやすい職場環境づくりや雰囲気づくりが重要です。そのために、「なぜ働き方や休み方を見直す必要があるのか」を従業員に理解してもらいます。
具体的には、啓発ポスターやリーフレットなどを作り、社内報やイントラネット、会議室などに掲示して休暇取得の重要性を伝える方法があります。従業員が気軽に休暇を取得できるように社内で奨励しましょう。
さらに、上司が率先して休暇を取ることや、「リフレッシュ休暇」「ボランティア休暇」など独自の制度を設けることも大切です。休暇を取る「罪悪感」や「やる気が無いと思われそう」という心理的障壁を和らげる効果が期待できます。
従業員の業務量調整
従業員が安心して有給休暇を消化するために、業務量や繁忙期を把握し、担当業務を柔軟に見直すことも重要です。従業員の有給休暇取得予定日を確認し、業務スケジュールや配分を決定しましょう。
また、特定の期間に有給休暇が集中しないようにするための工夫も必要です。
このように、業務量を調整し従業員が休暇を取得しやすい環境を整えることは、有給消化率を上げるために欠かせません。誰が休暇を取っても業務が滞らない体制を整えておきましょう。
計画的付与制度の活用
「計画的付与制度」とは、労使協定(労働者と雇用主との取り決めを書面化した協定)を締結した上で計画的に休暇取得日を割り振る制度です。年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの日数を割り振ります。
制度導入のメリットは有給消化率が上がるだけではありません。従業員が予定を立てやすくなり、雇用主は計画的な業務運営を行える点もメリットです。
計画的付与制度を導入し、バランスよく休暇取得の促進と業務運営が実施できる環境を整えましょう。
有給休暇の繰越についてのまとめ
消化できなかった有給休暇は翌年に繰り越すことができますが、発生から2年という時効が定められています。
有給休暇の取得は労働者に与えられた権利であり、企業が従業員に対して有給休暇を取得させなかった場合だけでなく、繰り越しを行わなかった場合も違法になるので十分注意しましょう。
企業側は有給休暇を消化する優先度や対象となる従業員などを正しく理解し、計画的に有給休暇の取得を促すことが重要です。
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