整理解雇とは? 押さえておきたい4要件や流れ、企業の注意点を紹介
経営難や業績不振などに悩む経営者にとって、余剰人員の整理解雇は非常に重要な課題です。懲戒処分などではない場合、従業員を解雇するのは非常に難しく、整理解雇でも厳格な法的手続きを慎重に進めなければなりません。
この記事では、経営層や人事の責任者に向けて、整理解雇の概要や必要な要件、具体的な手続きの手順を解説します。
また、この記事の後半部分では、整理解雇する際の注意点をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
整理解雇とは
整理解雇は、発生した余剰人員を整理するために解雇することです。業績の悪化や経営難など、整理解雇する理由は企業側にあります。
また、整理解雇する場合、従業員側に責任が無いのが通常です。企業は法律に則って手続きを進めなければなりません。
整理解雇の4つの要件
整理解雇は経営上の理由で行われる解雇ですので、従業員に責任はありません。
したがって、整理解雇するためには4つの要件を満たす必要があります。
ただし、4つの要件(4要素)をすべて満たしていない状態で整理解雇しても、解雇権濫用にならず企業は罰せられません。
その前提に基づいて、仮に解雇権濫用と判断された場合、解雇は無効となります。
しかし、民事問題ですので、違法な整理解雇のみという理由で刑事的または、行政的に企業が罰せられることはありません。
(出典:労働契約法 第16条)
1.人員整理の必要性
必要性の無い整理解雇は法的に認められないので、経営悪化など、人員削減しなければならない企業側の理由がなければなりません。
具体的には、数字を用いた詳細データや経営指標などを参照し、人員整理しないと企業にどのような影響があるかを検証します。
人員整理しながら大幅に賃上げしたり、大量の新規採用などの矛盾行動を取っていたりすると、人員整理の必要性がなくなり、整理解雇は違法と判断されやすくなります。
2.解雇回避努力義務の履行
整理解雇の前に、解雇以外で従業員への被害が少ない対策を、企業がどれだけやったかがポイントになります。
経営難や業績悪化の度合いに問わず、解雇は最終的な手段にしなければなりません。
具体的な解雇回避策の一部を紹介します。特に裁判例上重視されているのは、希望退職者を募集したかどうかです。
- 新規採用の停止
- ボーナスの減額や停止
- 一時的な休業(一時帰休)
- 希望退職者を募集
- 役員報酬を減額
3.人選基準の合理性
整理解雇には解雇する人材の選定と解雇理由が非常に重要です。
解雇理由に合理性がなければ、整理解雇の対象者の従業員や労働組合とトラブルに発展しかねません。
具体的には、勤務態度や企業への貢献度、勤務地、担当業務など、総合的な要素を用いて判断します。
また、年齢や家族構成など、従業員の客観的な情報も考慮が必要です。
ただし、年齢を基準にする場合は、再就職支援を充実させたりして、整理解雇が適法と判断されやすくなるようにしましょう。
「一律53歳以上の者」という基準で整理解雇した件について、「合理的とはいえない」と判断した裁判例があるためです。
4.従業員や労働組合への説明や協議
従業員や労働組合に対して説明や協議、交渉を実施することも重要です。
整理解雇の必要性や解雇回避努力の内容や解雇時期など、詳しく説明しましょう。
場合によっては、退職金の上積みや再就職、斡旋といった退職条件が従業員から提案されることもあるため、誠意を持って協議する必要があります。
なお、労働組合と企業が解雇協議条項を定めている場合、労働組合にも整理解雇の必要性や協議が必要不可欠です。
整理解雇を実施する手順
整理解雇を実施する手順をまとめました。
- 経営状況を改善できる整理解雇以外の手法を探す
- 整理解雇基準の策定
- 従業員協議
- 解雇手続の実施
ぜひ参考にしてください。
1.経営状況を改善できる整理解雇以外の手法を探す
整理解雇の手続きを踏む前に、希望退職者の募集や経費節減、契約(派遣)社員の削減などで経営状況が改善するかどうかを確認しましょう。
整理解雇はあくまで、企業の経営状況を改善する最終手段です。この作業を怠れば、解雇回避努力義務違反(上記要件2違反)を指摘されます。
(出典:労働契約法 第16条)
2.整理解雇基準の策定
整理解雇以外で経営状況の改善がまったく見込めない場合は、整理解雇の手続きが必要です。
まずは経営内部で、どの従業員を解雇するかという整理解雇の基準を策定します。
合理的な人選基準を策定しなければ、上記要件3違反を指摘されます。
3.従業員協議
従業員や労働組合との間に、協議労働組合と協約に協議・説明義務条項がある場合は、従業員や労働組合との協議を行わなければなりません。
協議を怠れば、上記要件4違反を指摘されます。
4.解雇手続の実施
通常の解雇と同様に、法令に則って解雇手続きを取ります。
解雇予告や解雇予告手当の支払い、社会保険等の対応など、適切に実施します。
整理解雇を実施する際の注意点
整理解雇する際、企業が注意しなければならないことを解説します。
解雇予告
整理解雇に限りませんが、従業員を解雇する場合、少なくとも30日前に解雇予告しなければなりません。
解雇予告した事実を証明ができるよう、できる限り書面で行い、従業員から受領のサインをもらうようにしましょう。
30日前に予告をせずに解雇を行う場合は、企業には解雇予告手当の支払いが義務づけられています。
(出典:労働基準法 第20条1項)
退職金
整理解雇は倒産手続ではありませんので、企業が退職金規程を設けている場合には、通常通りの退職金を支給する必要があります。
ただし、希望退職者の募集に際して、退職金の上積みなど有利な配慮を行っている場合には、解雇権濫用と認定されにくくなるので、適切に配慮することが望ましいでしょう。
有給休暇
有給休暇をすべて行使できずに退職日を迎える従業員に対して、有給休暇を買い取らないと違法になるわけではありません。
しかし、企業は有給休暇も通常通りに従業員が行使できるようにしましょう。解雇権濫用といわれるリスクを軽減できます。
従業員からの申し出には、柔軟に対応することが望ましいでしょう。
トラブルを防ぐために書類に残す
すべての手続きに共通することですが、企業が適切な手続きを行ったとしても、証拠が無ければ認められません。
希望退職者の募集や、従業員と労働組合間での協議などでも、逐一書面を残すようにすることが、トラブル防止の第一歩といえます。
整理解雇のまとめ
経営上の措置として、事業縮小時に整理解雇が必要な場合があります。
しかし、整理解雇は企業側に責任があるので、解雇権濫用とならないように手続きの配慮が必要です。
整理解雇が必要となった際でも、4つの要件をどの程度満たしているか、整理解雇の前にできることはないかを考えるとよいでしょう。