勤怠管理で守るべき法律は? 企業が知っておくべき重要ポイント
勤怠管理に関する法律は、主に労働基準法と労働安全衛生法の2種類があります。なかでも2019年4月に労働基準法が改正され、残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務が設定されるなどの変化がありました。
この法改正に対応するには、従業員の労働状況を正確に管理・保存したり勤怠管理システムなどを導入したりすることが必要です。
本記事では、改正労働基準法のポイントや勤怠管理での法律違反のリスクと罰則などについて、詳しく解説していきます。
勤怠管理に関する主な法律
勤怠管理に関する法律は、主に労働基準法と労働安全衛生法の2種類です。
以下ではそれぞれの法律について詳しく説明します。
労働基準法
労働基準法は、労働時間、休憩、休暇、賃金などの労働条件の原則や最低基準を定めた法律です。
この法律は正社員、パート・アルバイト、派遣労働者、外国人労働者など日本で働くすべての労働者に対して適用されます。主に以下のような内容が定められています。
労働時間 |
法定労働時間:1日8時間かつ週40時間以下 時間外労働:月45時間以内 / 年360時間以内 |
休憩時間 |
労働時間が6時間超:45分以上 |
休暇 |
休日:週1日以上、月4日以上 有給休暇:6か月以上勤務し、全労働時間の8割以上出勤した労働者に年10日の有給休暇を与える |
賃金 |
給与:通貨で全額を月1回以上一定の期日に労働者に支払う 割増賃金 |
労働安全衛生法
労働安全衛生法は労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的とした法律です。この法律では管理責任者の選出、安全衛生教育の実施などを定めています。
なかでも勤怠に関しては、以下のように定められています。
- タイムカードやパソコンなどの電子機器を使用して客観的に把握できるようにする
- 管理者は記録された労働時間を3年間保存する
勤怠管理を、労働者の自己申告制や手書きで行うことは、労働時間を客観的に把握できないため認められません。
勤怠管理が法律で義務付けられている理由
勤怠管理は労働者と企業の両方を守るために義務付けられています。
以下では、それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
労働者の健康と権利を守るため
勤怠管理が義務付けられているのは、労働者の長時間労働を抑制し正当な労働条件で働けるようにするためです。
長時間労働は、従業員の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。過労死や精神疾患のリスクを低減し、従業員のワークライフバランスを確保するためには、適切な労働時間の管理が必要です。
また全ての労働者には、賃金を正確に受け取る権利や休暇を取得する権利などがあります。このような権利を全労働者が平等に使用できるよう守るために、勤怠管理が法律で義務付けられているのです。
企業を労使トラブルから守るため
正確な勤怠管理は、残業代未払いなどの労使トラブルから企業を守る役割もあります。例えば勤怠管理を正確に行うことで、従業員の労働時間の把握漏れや割増賃金の反映ミスなどが減ります。
これにより、仮に労働者からの不正な賃金の要求があったとしても、確実な証拠を提示できるため、自社を守ることができるでしょう。
さらに、労働状況を把握できるため、働きすぎによる労働災害など企業にとって大ダメージとなる事態を避けることもできます。
【2024年最新】改正労働基準法のポイント
改正労働基準法では、主に以下のことが変更されました。
- 残業時間の上限規制
- 年次有給休暇の取得義務化
- 中小企業の割増賃金率引き上げ
- 労働時間の客観的把握方法の確立
本章ではこれらの内容について詳しく説明します。
残業時間の上限規制
労働基準法改正前は、36協定を結んでいれば残業時間に制限はありませんでした。
しかし改正労働基準法により、残業時間の上限が以下のように設定されました。
- 残業時間は原則として、月45時間、年360時間以内
- 例外として上記の規定を超える場合は、年6回まで
- 例外が認められる場合にも、残業時間は年720時間以内とし、月100時間未満・複数月(2か月から6か月間)の月平均が80時間以内であること
この上限に違反した場合は、6か月以下の懲役または残業時間が超過している従業員一人当たり30万円以下の罰金が科せられます。
年次有給休暇の取得義務化
改正労働基準法により、従業員に年5日以上の有給休暇を取得させることが義務付けられました。有給休暇は雇用から6か月間勤務し、全労働の8割以上出勤した場合に、原則10日間付与されます。
この義務は、年10日以上の有給休暇が付与される従業員であれば、アルバイトでもパートでも対象です。従業員が自ら申請しない場合でも、企業側が取得時季を指定して取得させなければなりません。
年次有給休暇を取得させなかった場合は、30万円以下の罰金が科されます。
また、労働者が指定する時期に有給休暇を与えなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
中小企業の割増賃金率引き上げ
2023年4月から、中小企業での月60時間以上の残業に対して、割増賃金率が引き上げられています。改正前と改正後の、時間外労働に対する割増賃金率の違いは以下の通りです。
改正前の割増賃金率
1か月の残業時間 |
大企業 |
中小企業 |
60時間以下 |
25% |
25% |
60時間超 |
50% |
25% |
改正後の割増賃金率
1か月の残業時間 |
大企業 |
中小企業 |
60時間以下 |
25% |
25% |
60時間超 |
50% |
50% |
1か月の時間外労働が60時間以下の場合は、大企業も中小企業も割増賃金が25%ですが、60時間超の場合は、大企業が50%なのに対し、中小企業は25%でした。そのため、中小企業では60時間超の時間外労働が発生しやすい状況だったのです。
そこで中小企業での長時間労働を抑制するために、60時間超の時間外労働に50%の割増賃金が設定されました。割増賃金を支払わなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を命じられることがあります。
労働時間の客観的把握方法の確立
改正労働基準法により企業は、ICカードやPCログなどを用いて労働時間を記録することが求められます。自己申告制による労働時間管理は、客観的ではないため原則として認められません。
そのため、手書きで勤怠を記録するなど、客観的ではない勤怠管理を採用している企業は、厚生労働省が定めている以下の管理方法を取り入れましょう。
- タイムカードによる記録
- パソコンの使用時間の記録(ログインからログアウトまでの時間)
- 事業者の現認等の客観的な記録
法律を遵守するための勤怠管理方法
この章では、法律を遵守するための勤怠管理方法として以下のことを説明します。自社の勤怠管理の参考にしてください。
- 労働時間の正確な記録と保存
- 勤怠管理システムの導入
- 従業員への教育と周知
労働時間の正確な記録と保存
法律を遵守するためには、タイムカードなどを用いて出退勤時刻を正確に記録し、保存しましょう。
勤怠管理の保存は正社員だけでなく、派遣社員やアルバイトを含む全従業員に対して義務付けられています。保存期間はいずれも5年間です。
この記録は、労働基準監督署の調査内容の一部であるため、いつでも提出できるようにしておきましょう。タイムカードの保管が面倒と感じる場合は、勤怠管理システムの導入も検討してみてください。
勤怠管理システムの導入
勤怠管理システムを導入することで、リアルタイムでの労働時間を把握することが可能です。そのため、残業時間の上限超過を未然に防ぎ、法令遵守を徹底できます。
また自動集計機能が付いているため、人為的ミスが減り、労務部や経理部の負担軽減にもつながります。
クラウド型のシステムであれば、法改正にもスムーズに対応可能です。システム側が法改正に合わせてアップデートを行うため、企業側の負担を軽減できるでしょう。
従業員への教育と周知
法律を遵守するためには、従業員一人ひとりが勤怠管理の重要性を理解し、正しい記録方法を身につけることが必要です。
従業員へ教育を行うことで、法令順守の意識向上や不正な打刻の防止につながり、適切な労働時間管理ができるようになるでしょう。
さらに管理職に対して、部下の労働時間に関する責任についてなど追加の教育を行うとより効果的です。
勤怠管理における法律違反のリスクと罰則
法律違反をした際のリスクは、罰金や懲役などの実刑だけでなく企業イメージの低下などのリスクもあります。
ここでは、様々なリスクについて説明していきます。
労働基準監督署による是正勧告
法違反が発覚した場合、労働基準監督署から是正勧告を受け、改善報告を求められます。勧告を受けた企業は指摘された問題点を速やかに改善し、その結果を報告しなくてはなりません。
改善が見られない場合のペナルティは以下の通りです。
- 罰金や懲役などの実刑
- 企業名が厚生労働省や労働局のサイトで公表される
罰金刑と懲役刑
賃金の未払いや休憩や休日を与えないなどの重大な労働基準法違反には、最大6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
違反の回数や程度によっては、経営者個人が刑事責任を問われることもあります。
各違反に対する罰則は以下の通りです。
違反した内容 |
罰則 |
賃金を契約通り支払わない |
30万円以下の罰金 |
休憩・休日を取得させない |
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
時間外労働や深夜労働などの割増賃金を支払わない |
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
年次有給休暇を取得させない |
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
時間外および休日労働の限度時間を超えて勤務させる |
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
企業イメージの低下と人材流出
労働法違反をすると企業の社会的信用を失墜させ、優秀な人材を確保できなくなります。さらに、現従業員の離職率が上昇し、取引先からの信頼も失うためビジネス上不利になるのです。
また、現代では企業の労使トラブルなどがSNSなどで炎上するケースもあります。一度炎上すると企業イメージを再構築することがより難しくなり、経営を続けていくことは困難です。
勤怠管理の法律に関するよくある疑問と回答
ここでは、勤怠管理でよくある3つの質問について回答します。勤怠管理について、わからないことがあった際の参考にしてください。
アルバイト・パートタイムの勤怠管理も正社員と同じように行う必要があるのか?
アルバイトやパートタイム労働者も、正社員と同様の勤怠管理が法的に求められます。具体的には労働時間の記録、年5日の有給休暇の付与、残業代の支払いなどは雇用形態にかかわらず、同様の対応をしましょう。
もし、雇用形態によって有給休暇を取得させないなどの違反をした場合は、違反内容に沿って前述した「罰金刑と懲役刑」が摘要されます。
管理職の労働時間も管理しなければならないのか?
2019年4月から労働安全衛生法改正により、管理監督者にも労働時間の把握が義務付けられました。
ただし、管理監督者は労働基準法の一部の規定が除外され、以下のルールが適用されます。
- 残業時間の上限がない
- 休憩を取得しなくても違法ではない
- 週1日の休日取得義務がない
- 残業手当・休日出勤手当の支払い義務がない
管理監督者にはこのようなルールが適用されますが、月100時間以上の残業になった場合は、健康面や安全面においてリスクが高まるため、労働時間の管理をする必要があるのです。
変形労働時間制を採用している場合、勤怠管理はどのように行うべきか?
変形労働時間制は、閑散期や繁忙期に応じて労働時間を調節できる制度です。この勤務形態を採用する場合は、労使協定に基づいた労働時間管理が求められます。
労働時間の計算単位は、1週間ごと、1か月ごと、1年ごとです。
1週間ごとの勤務形態は非定型変形労働時間制といい、小規模の小売業や飲食店で採用できます。1日の労働時間を10時間として時間外労働が発生するのを防ぎ、1週間の労働時間を40時間以内に調節する方法です。
1か月ごとの勤務形態は月間の繁忙期や閑散期に応じて調整する方法です。1か月の期間を平均した際に、1週間当たりの労働時間が40時間以内であるようにすれば、特定の週が40時間以上になっても労働が認められます。
1年ごとでは、1か月以上一年未満の期間の労働時間を平均した際に、1週間の労働時間が40時間以内になるようにする労働時間制です。
1日の労働時間は10時間が限度、連続で勤務できる日数は6日間までと定められています。
法令遵守の勤怠管理で従業員と企業の双方が満足できる関係を築こう
勤怠管理に関する法律は、労働基準法と労働安全衛生法があります。それぞれの法律では、労働時間の規定や休憩・休日の取得に関する義務や、従業員の健康に関する法律が規定されています。
特に近年では労働基準法が改正され、以下のことが新たに定められました。
- 残業時間は月45時間以下、年360時間以内
- 従業員に年5日の年次有給休暇を取得させる
- 中小企業の時間外労働手当を50%に引き上げる
- 勤怠管理をタイムカードなどで客観的に記録する
これらの法律を確実に遵守するには、勤怠管理システムの導入や従業員への教育などが効果的です。
もし法律違反となった場合は罰金や懲役などの実刑を受ける場合があり、社会的信用が失墜する恐れもあります。勤怠管理を確実に行うためも、勤怠に関する法律はしっかりと把握しておきましょう。