みなし配当とは? 計算方法や特例について解説!
会社が株主に利益を分配する配当のうち、自社株主の獲得など特殊な事例でみなし配当が発生するケースがあるでしょう。
みなし配当金は、会社側から株主に対する払い戻しのうち、利益剰余金が元手で税法上の配当と扱われます。
本記事では、みなし配当について知りたい会社の経営層に向けて、みなし配当の具体的な計算例や、特例などの情報を詳細にまとめました。
また、記事の後半では、みなし配当で注意すべき箇所をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
みなし配当とは
みなし配当金とは、会社から株主に対する払い戻しのうち、利益剰余金を原資とするもので税法上配当として取り扱われます。株主へ配当金が支払われていなくても、その配当金が支払われたとして、株主に課税されます。
つまり、実際には配当が支払われていない状態でも、税法上は支払い済みと扱われ、株主に税金の納付義務が生じる仕組みです。
また、株主の課税所得に加算される金額が一定の範囲内であれば、所得税・住民税の納税対象となる金額が減少するなど、みなし配当金には一定の免税措置があります。
メリット |
デメリット |
|
---|---|---|
株主側 |
税金の負担軽減や投資先の選択肢の拡大 |
実際に配当金を受け取れない |
企業側 |
株主に対して税金などの負担を軽減できる |
配当金を支払わなくても課税対象になるため、その分の財源を確保する必要がある |
(出典:e-Gov 法人税法23条)
みなし配当が発生するケース
みなし配当金が発生するケースは主に4つです。
残余財産の分配
株式会社の解散や清算の際、会社の債務を優先的に償還したあとに残る財産を、最終的に株主へ分配することがあります。
このとき資本の払戻部分と利益剰余金の配当部分も含めたものが分配の元手となり、みなし配当金が生じるため、株主は分配された残余財産の金額を所得として申告し、課税されます。
また、残余財産の分配は源泉徴収されるケースがあります。源泉徴収された税金は株主の年末調整や確定申告で調整され、差額分は返還されます。
組織変更
合併や会社分割などの組織変更により、みなし配当金が生じるケースがあります。会社分割とは、会社の一部の事業を別会社に継承することです。
また、事業譲渡によって企業が株式売却益などの利益を得た場合、みなし配当金が発生する場合もあるでしょう。
自己株式の取得
自己株式を取得すると配当が出なくなるため、みなし配当金が発生する可能性があります。
自己株式の取得で生じるみなし配当金は、自己株式の取得額や発行済株式総数、発行済株式の時価総額などのさまざまな要因によって異なります。
資本剰余金
資本剰余金は株主が拠出した払込資本のうち、資本金として扱われなかった部分のことで、出資の払い戻しという扱いです。
具体的には、株主総会で決議された資本剰余金の配当が、その時点での自己株式保有数を上回っている場合、超過分がみなし配当金として扱われるでしょう。
みなし配当の計算方法
みなし配当金の計算方法は主に4種類です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.基本的な算出方法
みなし配当金の基本的な算出方法は4種類です。
- 非適格合併のみなし配当額=交付を受けた金銭等の価額-(合併直前の資本金等の額÷発行済株式等の総数×株主が保有する株式数)
- 非適格分割型分割・非適格株式分配の場合のみなし配当額 = 分割部分の税務上の純資産額 ÷ 分割法人全体の税務上の純資産額 × 分割法人全体の資本金額
- 資本剰余金の配当、残余財産を分配したときのみなし配当額 = 払い戻した金額 × (資本金等に対応する金額 ÷ 払い戻し分とその資本金等に対応する金額) × 株式保有割合の比率
- 自己株式の取得・持分会社の出資払戻し・組織変更の場合のみなし配当額 = 交付を受けた金銭等の価額−(資本金等の額×取得株式数÷発行済株式等の総数)
2.取引別の算出方法
みなし配当金の計算式に具体的な数値を当てはめて解説しました。ぜひ参考にしてください。
非適格合併
次の条件をもとに非適格合併のみなし配当金を計算しましょう。
- 企業A:資本金5,000万円で発行済株式数は1,000株
- 企業B:株式保有割合30%である100株を保有
- 合併後:企業Aは企業Bから1,000万円の金銭が交付される
非適格合併のみなし配当額を求めるために、先ほど紹介した式に数値を当てはめます。
- 非適格合併のみなし配当額
=1,000万円 - (5,000万円 ÷ 1,000株 × 100株)
=1,000万円 - 500万円
=5,00万円
この場合、500万円が企業Bに対する非適格合併のみなし配当額です。
非適格分割型分割・非適格株式分配
適格分割型分割は、企業が分割(別会社の設立)のとき、分割によって生じる所得税や法人税の負担が繰り延べられ、分割した企業や株主に対して税務上のメリットが生じます。非適格分割型分割は、適格分割型分割に該当しない分割で適格分割のような税務上のメリットを得られません。
次の条件を元に、非適格分割型分割・非適格株式分配のみなし配当金を計算してみましょう。
- 分割法人全体の税務上の純資産額:1億円
- 分割部分の税務上の純資産額:3,000万円
- 分割法人全体の資本金額:5,000万円
先ほど解説した計算式に数値を代入して計算しましょう。
- 非適格分割型分割・非適格株式分配の場合のみなし配当額
=3,000万円÷1億円×5,000万円
=1,500万円
この場合、1,500万円が非適格分割型分割・非適格株式分配のみなし配当金です。
資本剰余金の配当、残余財産の分配
次の条件をもとに資本剰余金の配当、残余財産を分配した際のみなし配当金を計算してみましょう。
- 会社A:1,000円/株の剰余金を配当
- 株主B:保有する会社Aの株式100株のうち、保有資本金に対応する額は100円/株
- 会社Aは合計1,000,000円の剰余金を配当
払い戻した金額 = 1,000,000円
- 資本金等に対応する金額
= 100円/株 × 100株
= 10,000円 - 払い戻し分とその資本金等に対応する金額
= 1,000円/株 × 100株 + 10,000円
= 110,000円 - 株式保有割合の比率
= 100株 ÷ 全体の発行済株式数
この場合、次のような計算式が成り立ちます。
- 1,000,000円 × (10,000円 ÷ 110,000円) × (100株 ÷ 全体の発行済株式数)
このように、資本剰余金の配当や残余財産の分配によるみなし配当額は、払い戻した金額や株主が保有する株式数、株主の保有株式の資本金に対応する額などの要素に左右されます。
自己株式の取得・持分会社の出資払戻し・組織変更
自己株式の取得・持分会社の出資払戻し・組織変更の場合に、生じるみなし配当金を次の条件で計算しましょう。
例えば、会社Aが1万円/株の自社株式を1,000株取得したとします。同社の発行済み株式総数は10,000株で、資本金等の額が1億円の場合、みなし配当額は次のように計算されます。
- 交付を受けた金銭等の価額
= 1,000株 × 1万円/株 = 1,000万円 - 資本金等の額×取得株式数÷発行済株式等の総数
= 1億円 × 1,000株/10,000株
= 1,000万円 - 1,000万円 - 1,000万円
= 0円
したがって、みなし配当金額は0円です。
みなし配当の特例
みなし配当の特例とは、相続税の課税の対象である非上場株式を発行会社に譲渡した場合、配当所得ではなく、株式譲渡所得で処理されることです。
この特例を利用するには、株式の相続人が相続の発生日から3年10ヶ月以内に、その株式を発行会社に売却しなければなりません。
総合課税で45%かかる自己株式の取得が、分離課税の20.315%のみになるメリットがあります。具体的な数字に当てはめた例や、注意点を詳しく見ていきましょう。
(出典:国税庁 No.1477 相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例)
みなし配当の特例を利用しなかった場合
次の具体例をもとに、みなし配当の特例を使った場合に起こることを解説します。
経営者Aさんは8億円の株式を会社の後継者である長男に、残りの資産2,000万円を次男に相続させようとしています。
しかし、次男の分が少ないため4億円分の株式を自社に売却し、キャッシュに変えて次男へ生前に相続させました。
その結果、翌年の次男の確定申告で約2億円の所得税と住民税が、みなし配当課税されます。
また、手元の2億円に対して数千万単位の相続税を払わなければなりません。
みなし配当の特例を利用した場合
先ほどの例にみなし配当の特例を利用した場合は次のようになります。
まず、Aさんの死後に次男に4億円分の株式を相続させます。
そして、3年10ヶ月以内にその株式を発行元の会社に売却します。
みなし配当の特例により、次男にかかるのは所得税20%の約8,000万円になり、約1億2,000万円の節税効果を期待できます。
ただし、次男が経営したいと主張したり、売却額に納得しなかったりするリスクがあるでしょう。したがって、みなし配当の特例を利用する際は、慎重に判断してください。
みなし配当の特例を利用できないケース
株式の相続人が配偶者の場合、みなし配当の特例を利用できない可能性が高いでしょう。なぜなら、相続税の課税対象が株式を発行元に売却したときのみでしか、適用されないためです。
夫婦間の相続には配偶者の税額軽減があり、最低1億6,000万円まで相続税が課税されないケースが非常に多いです。
つまり、相続した配偶者には20%の分離課税ではなく、45%の総合課税が適用されます。
みなし配当に関する注意点
みなし配当の注意点を3つまとめました。
みなし配当が発生しないケース
まず、適格合併にはみなし配当が発生しません。適格合併では消滅会社の利益積立金が存続会社にすべて継承され、消滅会社の株主に対する金銭の交付などが起きないためです。
適格分割型分割の分割会社の場合も、同様の理由でみなし配当が発生しません。
また、自己株式を次のようなケースで取得したのではみなし配当が生じないでしょう。
- 証券取引所などの市場で取得
- すべての事業を譲渡にて取得
- 合併反対株主の買取請求権に応じた株式の取得
みなし配当課税が生じる可能性
みなし配当課税とは、税務において配当以外の行為を配当と同じことと判断し、課税することです。
例えば、自己株式の取得に伴い配当が生じなくなるため、取得額や発行済株式総数、発行済株式の時価総額などの要因によって異なるみなし配当金が計算され、その金額が課税されます。
また、非適格(時価)での合併する際も同様に、合併によって株主が受け取る報酬が配当とみなされ、みなし配当課税が生じます。
みなし配当課税は大きな負担になる可能性がありますので、会計士や税理士に相談し、十分に比較検討するとよいでしょう。
みなし配当は総合課税所得になる
個人が非上場企業から受け取る配当所得は、原則として総合課税所得の税金をかけられるでしょう。
株式を売却すると、株式譲渡所得としてその所得額の大小に関わらず税率20.315%がかかりますが、配当所得の場合には所得の金額に応じて階段式に税率が高くなっていく超過累進税率が適用されます。
超過累進税率の場合、住民税を含めると約55%の税率がかかりますので、大きなみなし配当が発生すると予想外の税金負担になってしまうため注意が必要です。
みなし配当のまとめ
みなし配当とは、会社から株主に対する払い戻しのうち、利益剰余金を原資とするものであり、税法上配当として取り扱われます。
みなし配当の計算や税金処理などは、非常に複雑です。本記事で紹介した内容を参考にしながら、みなし配当の処理に役立ててください。
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