事業部制組織とは? 職能別組織との違いから種類、メリット・デメリットまで紹介!
事業部制組織とは、事業によって部署を分けて部署ごとに権限を与える、企業の組織構造の1つです。
似た体制もいくつかあるため、導入を検討する際は、まずそれぞれの組織構造の概要を知るところから始めると良いでしょう。
この記事では、事業部制組織の概要や混同しやすい体制との違い、事業部制組織のメリット・デメリットなどを解説します。
事業部制組織とは
「事業部制」とは、本社部門の下に、事業ごとに編成された部署(事業部)を配置する組織形態のことです。
各事業部に多くの責任や権限が委ねられており、現場の状況に即した早急な意思決定や、本社部門の経営の負担軽減が期待できます。
職能別組織との違い
事業部制組織と似たものに、「職能別組織」があります。職能別組織とは、「製造」「営業」といった職能や業務内容ごとに部門を編成する組織形態です。「機能別組織」と呼ばれることもあります。
この職能別組織は、一つの製品やサービスを組織全体で支えていくものです。一方の事業部制組織は、それぞれが独立して会社に必要な機能を各事業部が保有しています。
カンパニー制組織との違い
もう1つ似た組織体制として、「カンパニー制組織」もあります。カンパニー制組織は、各事業部を1つの会社と捉える組織形態です。カンパニー制組織では、経営における意思決定から、人事や経理、予算管理までを各々に一任します。
一方、事業部制組織ではあくまでも意思決定を行うのは本社や本部であり、事業部の権限はそれほど大きくありません。カンパニー制組織のほうが、事業部制組織と比べて独立性が高いと言えるでしょう。
事業部制組織の歴史
事業部制組織の歴史は古く、1920年代にさかのぼります。事業部制組織を始めに取り入れたのは、アメリカの化学メーカー・デュポン社です。
同社は経営改善を目標とし、1921年に社内の組織改革を行って事業部制を導入しました。その後も多くの企業が事業部制を導入し、成功・成長を実現しています。
国内で初めて事業部制を導入した企業は、松下電器産業(現在のパナソニック)でした。同社は1927年に新たな部署を立ち上げ、製品の生産・販売の責任を各部署の責任者に負わせる体制としたのです。のちの1933年には社内の他部署でも事業部制を導入しています。
この方針について松下電器産業創業者の松下幸之助は、「成果や責任の所在の明確化と、経営者の育成を狙いとした」といったことを語っています。同社が現在、国内有数の企業となっていることからも、事業部制組織がもたらした影響は大きいと言えるでしょう。
事業部制組織の主な種類
事業部制組織には、主に3種類あります。
- 製品別事業部制
- 地域別事業部制
- 顧客別事業部制
それぞれの違いを解説します。
①製品別事業部制
「製品別事業部制」は、提供する製品やサービスごとに事業部を構成する体制です。事業部制組織の分類のなかでは、もっとも一般的な形態だと言えます。
たとえば、カメラの製造会社として知られるニコンも、製品別事業部制を取り入れている企業の1つです。同社は、以下のような体制となっています。
- 映像事業
- 精機事業
- ヘルスケア事業
- コンポーネント事業
- 産業機器・その他
このように製品ごとの区分とすることで、専門性・技術力向上が期待できます。
②地域別事業部制
「地域別事業部制」は、文字どおり地域ごとに事業部を構成する事業部制組織の分類です。
さまざまな地域・国に展開している企業が、「関西地方」や「関東地方」といったように、ある程度まとまった地域で切り分けて事業部を配置する際に使用します。国内では、「無印良品」を展開する良品計画が2021年からこの分類を取り入れています。
特に全国展開をしている企業は、製品別・顧客別事業部制に比べてスムーズな対応ができる、地域特性に沿ったサービス提供ができるといった点がメリットです。
③顧客別事業部制
「顧客別事業部制」は、ほかの分類とは異なり、顧客の特性によって各事業部を構成する点が特徴です。たとえば、一例として以下のような分類がなされます。
- 収入が低い若者向け、収入が多い中年層向け
- 個人向け、法人向け
- 飲食店向け、美容室向け
顧客別事業部制では特定の顧客層に合わせた事業を展開できるため、ニーズを的確に捉えた製品展開・販売ができます。
事業部制組織を導入するメリット
事業部制組織を導入することには、いくつかのメリットがあります。
- スピーディーな意思決定や業務遂行
- 本部の負担軽減
- 経営者目線を持つ人材育成が可能
紹介した3つのパターンに共通するメリットを紹介します。
スピーディーな意思決定や業務遂行
前述のとおり、事業部制組織では各事業部に責任や意思決定の権限が与えられます。つまり、何らかの決定や判断をする際も現場で対処できるということです。
都度、上層部や本社に問い合わせるといった工程が省略できるため、スピーディーに意思決定ができます。着手すべき業務にも、直ちに取りかかれるでしょう。
素早く行動できることで、ビジネスチャンスもつかみやすくなるかもしれません。
本部の負担軽減
各事業部で意思決定ができることはすなわち、本部の負担軽減にもつながります。各事業部に責任や権限を譲渡しているため、本部で検討すべき事項は大幅に少なくなるのです。
経営課題への対処、全社に関する事項の検討に時間が割きやすくなるでしょう。結果的に、全社の経営改善に結びつく可能性も高まります。
経営者目線を持つ人材育成が可能
各事業部の責任者を任せる人材が、経営者目線を持ちやすくなる点も見逃せません。
「営業部」「製造部」など職能ごとに分けられる職能別組織では、特定のサービスや製品を支えるために各部署が自らの業務を遂行するのみです。社内全体を見据えた、経営視点での行動を取れる人間も育ちにくいでしょう。
自社のリーダー候補となる人材を事業部制組織の責任者にすれば、経営の視点から物事を判断できる人間になるはずです。
責任の所在の明確化
事業部制組織では、収支を事業部ごとにまとめます。つまり、業績に関する責任がどこにあるのかも明確になるのです。
会社全体で収支を出す場合と比べると収益の出ていない部署がはっきりするため、部ごとの競争を促すことにもなるでしょう。
各部署の業績向上や部署間の競争を促すために、特に業績を上げている部署にのみインセンティブを渡す試みも、良いかもしれません。
需要の高い事業の可視化
部署ごとの収支は、事業の選択と集中を行う基準ともなります。
収支が部署ごとに出るということは、どの部署に採算性があり、どの部署が経営の課題となっているかが分かりやすくなるということです。
特に業績が良い部署は、自社の事業のなかでも需要があると判断して良いでしょう。
事業部制組織を導入するデメリット
一方、事業部制組織にはデメリットもいくつか存在します。
- 経営資源のロスが発生
- 事業部間の格差
それぞれ解説します。
経営資源のロスが発生
事業部制組織では、事業を行うために必要な経営資源を各事業部で保有することになります。全社レベルで見れば、経営資源の機能が重複する可能性もあるのです。
たとえば、各事業部で製造工場を保有している場合、「工場」という経営資源が重複していることになります。コスト面では、1つの工場で複数の製品を製造することが理想的です。
事業部間の格差
各事業部が独立して業務を行う体制は、ともすれば他部署との関係悪化や業績低迷を招きます。部署間の連携が少なくなったり、新たなアイデアが生まれにくくなったりするためです。
事業部ごとに収支が見えるということから、好調な部署とそうでない部署がはっきりしすぎて部署間の対立につながるかもしれません。
事業部制組織についてのまとめ
事業部制組織は、製品別・顧客別・地域別などに事業部を分け、それぞれに「企画」「営業」「開発」の機能を持たせる組織形態を指します。
迅速な意思決定や柔軟な対応を可能にする一方、「部署間の対立を招く」「経営資源の重複が起きる」といったデメリットが生じないように注意が必要です。
どの組織形態が適しているかは、企業によって異なります。事業内容や組織規模に応じた組織形態を選べるよう、慎重に検討を進めてください。
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