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第三者割当方式による新株発行の有利発行・不公正発行(2・終)

著者:日本大学商学部 教授  鬼頭 俊泰

第三者割当方式による新株発行の有利発行・不公正発行(2・終)

1.はじめに

前回は、第三者割当方式による新株発行について、会社法における発行手続と有利発行・不公正発行の問題を中心に解説しました。

今回は、前回の内容をもとに、第三者割当方式による新株発行において有利発行および不公正発行が問題となった近時の関連裁判例(大阪高決令和4年2月10日・金判1650号34頁)を取り上げて解説します。


2.大阪高決令和4年2月10日・金判1650号34頁の紹介

(1)当事者の属性

Y(相手方、債務者)

通信機器の販売及びレンタル等を目的とする株式会社(発行済株式総数343万1500株、資本金6億3967万8710円、東証JASDAQスタンダード市場に上場)

X(抗告人、債権者)

コンピューターソフトウェアの開発・販売ならびに保守を目的とする株式会社甲を中核とする甲グループの投資部門を担う合同会社(令和4年1月26日時点においてY発行済株式のうち129万3300株(発行済株式総数の37.69%)を保有する筆頭株主)

(2)訴訟に至る経緯

B(Xの代表社員職務執行役)は、遅くとも令和3年5月ころからYの経営陣である代表取締役らと接触を開始し、同年6月14日、債務者の経営陣と面談。

XおよびBは、上記面談の際に、Yに対し、独立社外取締役の招聘として2名の取締役候補者を推薦するとともに、Xとの業務提携・資本提携の拡大などYの経営に関する提案を行ったが、Yはこの提案を拒絶。

令和3年7月30日、Yは定時株主総会を開催し、同総会において取締役6名の選任、監査役2名の選任、取締役に対する譲渡制限付株式報酬導入についての各決議がいずれも可決。

Xは、上記株主総会に出席し、上記決議のうち、取締役6名の選任についていずれも反対しましたが、Xらの反対票は合計するとおおむね30%弱であり、取締役6名はいずれも70.98%から71.02%の賛成票を得る。

なお、株主総会における出席株主の議決権数は21026個であり、参加率は61.78%(前回株主総会における議決権数は19072個、参加率は55.58%)。

令和3年8月27日、Yは中期経営計画を発表。同計画では、中古端末の販売数の増加が見込まれること、法人向けサブスクリプション型サービスを展開することを前提としたうえで、リユース関連事業については調達から納品販売の出口までの一元管理・多店舗展開・サービス追加・買取検討などが挙げられており、新規事業の成長としてはレンタルサービスの規模の拡大・ストック収益の拡大・サービスメニュー強化による収益化などが挙げられている。

令和3年9月30日、Xは、Yの取締役会議事録の閲覧および謄写をすることの許可を求める申し立てを行う(別件事件)。

令和4年1月26日、Yの取締役会は発行価格を359円、Aに対する第三者割当方式により普通株式231万株を発行する旨の決議を行う。

本件新株発行が実施された場合には、Xの発行済株式数の持株比率は37.67%から21.91%に減少。

かかる事態を受けXはYに対し、本件新株発行が、有利発行・著しく不公正な方法による新株発行にそれぞれ該当するとして、本件新株発行の仮の差止めを求めた。

(3)原決定(大阪地決令和4年2月9日)の要点

【有利発行について】

  • 協会ルールは原則として公正な価格を払込金額決定の直前日とし、例外として「最長6か月」を遡った日から当該払込金額決定の直前日までの間の平均価格を基準とする
  • 例外の適用は、上記原則を適用すると株価の急騰、急落など市場価格の急激な変動などがあるような場合に、払込金額決定の直前日の市場価格を公正な価格とするのが相当といえない場合があることを想定したもの

→本件においては、株価の急激な変動や出来高の急増などの事象は見受けられず、上記例外に該当するような場合とは認められない

⇒本件新株発行の発行価格は、「特に有利な金額」には該当するものとは認められない

【不公正発行について】

  • 不公正発行は、不当な目的を達成する手段として新株発行が用いられる場合をいう
  • 株式会社において、その支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合にあたる

(支配権争いの有無)

  • X及びYの現経営陣の間には、会社の支配権についての争いが存在している
  • ただし、本件新株発行を決議した取締役会に近接した時期にYの株主によってその帰趨が決定されることが見込まれたものとはいえず、上記時点においてYの現経営陣が支配権を喪失するに至る危険性が相当程度切迫したものであったとも認められない
  • 本件新株発行は、既存株主の持株比率を大幅に低下させ、Yの現経営陣の支配権を維持することを目的の一つとしたものであると一応推認することができる

(本件新株発行の事業上の必要性)

  • 本件新株発行の前提となるYとAとの資本業務提携が、実体を欠くものであるとか、これまでのYの事業内容や中期経営計画と相反する内容によるものであるとは認められない上、上記資本業務提携は、これらを延長ないし拡大したものと捉えることができ、事業上の必要性を認めることができる

(本件株式発行の事業上の合理性)

  • 本件新株発行の具体的使途には一定の合理性がある
    (※間接金融による資金調達の可能性や、割当予定先をAとする選択、そして資本業務提携契約についても合理性・必要性を認めている)

→本件新株発行の目的の一つには、Xの持株比率を低下させる目的があることは認められるにしても、他方で、Yにおいては、Aとの資本業務提携を通じた具体的な資金調達の必要もまた認められるもので、前者が後者を優越するような関係にあるようなものとは評価できず、上記Xの持株比率を低下させる目的をして、本件新株発行の主要な目的であると一応認めるに足りないというほかない

⇒本件においては、被保全権利の疎明があったものと認められない

(4)本決定要旨

本決定は、上記のように判示した原決定を全面的に引用したうえで、不公正発行部分の争いにつき以下のような点を付加しています。

  • Xが本件取締役会決議の時点においてYの支配権を事実上取得していたものとまでは認められない
  • 本件新株発行が、既存株主の持株比率を大幅に低下させ、Yの現経営陣の支配権を維持することを目的の一つとしたものであるとの疎明があるといえる
  • 本件新株発行によるYとAとの資本業務提携が実体を有し、これまでのYの事業内容や中期経営計画を延長ないし拡大したものと捉えることができ、事業上の必要性を認めることができる

⇒以上のような事業上の必要性・合理性を勘案すると、前記のとおり、本件新株発行が、既存株主の持株比率を大幅に低下させ、Yの現経営陣の支配権を維持することを目的の一つとしたものであり、また、中期経営計画を早期に実施する側面があるとしても、本件では、Xの持株比率を低下させ現経営陣の支配権を維持することが本件新株発行の主要な目的であるとの疎明があるとはいえず、他に不当な目的を達成する手段として新株発行が利用されたことの疎明があるともいえない


3.第三者割当方式による新株発行の有利発行・不公正発行の検討

(1)本決定の意義

本事案は、上場会社の新株発行が有利発行・不公正発行に該当し差止めの対象となるのかが争われ、いずれも該当しないと判断された事案です。

本事案は、決定にあたっての基本的な判断枠組みなどにつき過去の同種事例と大きな違いは存在せず、結論に異論はないものと思われます。

ただ、本決定および原決定(以下、特段の言及のない限り両者を合わせて「本決定」という)は、日本証券業協会が定める自主ルールに基づいた有利発行性の判断基準(払込金額決定直前日までの間の平均価格とする例外規定が適用される場合)や、不公正発行の判断基準(支配権争いの有無と新株発行による既存株主への影響・新株発行の事業上の必要性および合理性)について一事例を加えるものとして意義があると思われます。

(2)有利発行

本件で取り上げられている日本証券業協会による指針においては、上場会社の第三者割当による「払込金額は株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額に0.9を乗じた額以上の価額であること」とし、但書きとして「直前日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に0.9を乗じた額以上の価額とすることができる」としています。

本決定も適示するように、上記但書きの内容を例外として位置づけ、例外の適用はあくまで払込金額決定の直前日とする原則を適用することが相当でない場合を想定しているものと考えられ、こうした運用はこれまでの裁判例・学説の考え方に沿ったものと評価できます。

市場株価の平均値を基礎として採用した裁判例(横浜地決平成19年6月4日・金判1270号67頁)も存在するところ、同事案では債務者の株価が市場流動性の乏しい銘柄であって、主たる取引先との取引状況により株価が大きな変動を示す傾向がみられ、現に、債務者の業績発表の影響により発行価額決定の直前である時点で株価が著しく高騰しており、株式の客観的価値を計る必要から、発行日直前の株価のみを基準とするのは相当でないと判断しています。

以上からすると、本件では、上場会社の株式が問題となっていることに加え、過去6か月のY株価が一定の値幅で推移しており、さらに株価の急騰、急落といった株価の大幅な変動などがあったものとは認められていないことから、Xの主張する直近の終値の平均値を算定基準として採用することは困難であると思われます。

(3)不公正発行

前回解説で述べたとおり、新株発行の主要な目的が、正当目的を超え、不当目的にあるかどうかにつき、事案に基づく詳細な検討が必要となり、検討に当たっては、どのような要素に着目すべきかが事案の検討・結論にとって重要となります。

その点につき本決定は、正当目的の検討(新株発行の事業上の必要性と合理性)と不当目的の検討(支配権争いの有無と既存株主の持株比率に対する影響)とを切り分け、後者の検討に基づき現経営陣の支配権維持目的の存在を一応推認しつつも、それ自体が正当目的を超える主要な目的であるとの疎明がないことを理由にXの主張を斥けています。

不当目的の存在が否定される場合には、支配権維持のために新株発行権限が濫用されようとしている可能性は低下するため大きな問題とはなりませんが、本件のようにその存在が認められる場合には、正当目的を打ち消すほどの不当目的の存在の疎明が必要となります。

本決定は、新株発行の事業上の必要性につき、新株発行を行うY側の説明に一見してわかる矛盾や不合理性が認められるかを判断しているように見えます。

また、新株発行の事業上の合理性については、各支出項目の積算根拠等に基づく検討を行っていますが、基本的には経営判断であるとして取締役会の判断を尊重する姿勢がうかがえます。

仮に具体的事情から資金調達目的の実体が認められない場合には、不公正発行であるとして差止めが認められることになりますが、新株発行を行う会社側が一応合理的な資金調達目的を主張した場合には、本件と同様に差止めは容易には認められないこととなるでしょう。

こうしたことから、新株発行を行う会社側は、会社の事業遂行上当該新株発行が必要である旨をかなり詳しく説明するのが通例であり、支配権維持目的の新株発行であるとの疑いが存する限りは、当該新株発行計画の策定の経緯や合理性について会社側に丁寧な説明を求めることが標準的な扱いになっています。

裁判例も、資金需要に関する会社側の説明に基づき、結論的に不公正発行とは判断しない傾向にあり、実際に不公正発行として差し止め仮処分が認められたのは、具体的な資金使途に実体があるか極めて疑わしい事例がほとんどです。

本件では、前述した通り、本件新株発行の事業上の必要性につき、Aとの資本業務提携が実体を欠くものであるとか、これまでのYの事業内容や中期経営計画と相反する内容によるものであるとは認められない上、上記資本業務提携は、これらを延長ないし拡大したものと捉えることができることを理由に認めています。

YとAの資本業務提携契約は、両者が接触してから3か月余りでなされたものであり、また、Yによる中期経営計画の発表は、XとYの対立が鮮明となった時期よりも後になされたものです。

前者の3か月余りでなされたという点については、後者の中期経営計画の内容と、同内容とAの事業内容との親和性や検討状況から問題ないと判断されています。

つまり本決定は、支配権争いが顕在化した後に作成された計画をもとに本件新株発行の事業上の必要性につき検討し、その必要性を認めていることとなります。

確かに、当初は具体的な事業計画やそのための資金調達の計画がおよそ存在していなかったにもかかわらず、本件のように筆頭株主との対立が明らかになるや否や短期間の検討を経ただけで相当規模の第三者割当ての計画が立案され実行に移されるような事案についてまで、事業のために必要であったとする会社側の主張を認めることには疑問があります。

また、大量の資金を調達し、その資金を投入して事業を行うには、慎重かつ十分な検討を経る必要があるところ、募集株式の発行等の計画の発案から実行までのプロセスが、通常のビジネス慣行から逸脱しているといえる場合には、資金使途や当該割当ての必要性に関する会社側の説明は説得力を欠くものと判断される余地はあると思われます。

しかし、本件ではXとYの対立が明らかとなったのちに中期経営計画が作成されているものの、同計画に具体的かつ明確な資金使途の実体が記されており、かつ、かかる内容と事業内容等との間に矛盾も生じていないとすれば、同計画に基づいてなされる新株発行には事業上の必要性を認めざるを得ないでしょう。

また、ひとたび会社内部で支配権争いが生じると途端に新株発行自体が困難になる(実質的に株主総会決議が必要となる)とすれば、少なくとも取締役会決議に基づく新株発行が認められている公開会社においては機動的な資金調達が阻害されることにもつながりかねず妥当ではありません。

もっとも、株式会社が一応の資金調達目的を整えて新株発行等を決定した場合、裁判所が、短い審理期間の中でそれが本当に会社の事業にとって必要かつ合理的なものか、それとも現経営陣の支配権を維持・確保するための口実であるのかを判断することは容易でなく、会社の主張を裁判所が追認するだけに終わる危険が大きいことも事実でしょう。


4.おわりに

本件では、本件新株発行が有利発行・不公正発行であって株主が不利益を受けるおそれのあることを疎明する必要があります。

ただ、有利発行の検討にあたっては、株価という数値をもとにした定量評価をすればよいですが、不公正発行の検討にあたっては、正当目的を超える不当目的に該当する各種事実の評価という定性評価となるため、具体的評価基準についてはケースバイケースで不明確にならざるを得ず、また、そもそも主要な目的が何かについても外形的な諸事実から客観的に確定するほかありません。

Xとしては、本件新株発行の事業上の必要性と合理性につき、具体的な資金使途の実体がないことやYの主張内容に矛盾・不合理な点があることを疎明するか、それが困難である場合には別の方法(取締役選任決議を目的とする臨時株主総会の招集請求や早期の会社からの離脱など)による問題解決のための検討が必要となります。


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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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