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株式併合後に株式買取請求をした者による株主総会議事録の閲覧・謄写(2・終)

株式併合後に株式買取請求をした者による株主総会議事録の閲覧・謄写(2・終)

この記事の著者
日本大学商学部  教授 

1 はじめに

今回は、前回の内容をもとに、最二小判令和3年7月5日民集75巻7号3392頁(上告棄却)(以下、「本判決」という)を解説します。

本判決は、株式併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずる場合に、株式買取請求をした者が株主総会議事録の閲覧および謄写の請求をすることができる債権者にあたるかどうかを判断した初めての最高裁判決です。

問題となっているのは、前回も解説したとおり、会社法182条の4第1項に基づく株式買取請求に対して、株式会社が同法182条の5第5項に基づく仮払をした場合に、当該仮払を受けた者は株主総会議事録の閲覧および謄写をすることができる債権者(会社法318条4項)にあたるのかどうかです。

株主総会議事録の閲覧および謄写を請求できるのは株主もしくは債権者である必要があります(会社法318条4項)。

したがって、株式併合によって1株未満の株式を有する者となった時点で、端株制度が廃止された現在では同閲覧謄写請求を行うことができる株主としての地位は失われるため、債権者である必要があります。


2 最二小判令和3年7月5日民集75巻7号3392頁(上告棄却)の概要

まず、本件事案の概要を見てみましょう。

【事案の概要】

  • (1)Y社は、電子機器・部品その他の物品の販売等を目的とする株式会社です。同社は、平成28年7月4日、臨時株主総会および普通株主による種類株主総会で、同月26日を効力発生日として同社の普通株式およびA種種類株式の各125万株を各1株に併合する旨の決議を行いました。
  • (2)Xは、Y社の株式4万4400株(以下、「本件株式」という)を保有する株主であったところ、上記決議にかかる議案に反対する旨をY社に通知したうえで、上記総会における決議において反対しました。また、Xは、上記株式併合の効力発生日の前日である同月25日までに、会社法182条の4第1項に基づき、Y社に対し、株式買取請求を行い、その価格決定について協議が調わないことから、裁判所に株式価格決定の申立てをしました。これに対し、Y社は、同年10月21日、同法182条の5第5項に基づき、Xに対し、自らが公正な価格と認める額として1332万円(300円×4万4400株)を支払いました。
  • (3)この価格決定申立事件は管轄裁判所において係属中でしたが、Xは、平成29年8月24日、Y社に対し、Xが本件株式の価格の支払請求権を有しており、Y社の債権者に当たるなどと主張して、会社法318条4項に基づき、その株主総会議事録の閲覧および謄写を求めました。
  • (4)第1審判決(東京地判平成31年2月18日民集75巻7号3413頁)は、上記価格決定申立事件が係属中であったことやXが会社法182条の5第5項に基づく支払を受けていることを理由に、Xが債権者に当たるとは認められないとしましたが、控訴審判決(東京高判令和元年8月7日75巻7号3416頁)は、裁判所によって株式の価格の決定がされていないにもかかわらず、会社法182条の5第5項に基づく支払によって株式買取請求権が確定的に消滅するとは認められないため、XはY社の債権者であると認めました。かかる控訴審判決を不服とするY社が上告しました。

裁判所(下級審判決+本判決)は、以下のように判示しています。

【第1審判決(東京地判平成31年2月18日民集75巻7号3413頁)】

  • Y社が公正と考える取得対価の仮払をしている。
  • Xが申し立てた株式買取価格決定事件につき、申立て時点において終局決定がされていない。

  ↓

  • Xが株式買取代金に係る債権を有する債権者であるとは認められない。
  • Xによる別訴(損害賠償請求訴訟)も係属中であり、損害賠償請求権の存在が確定していない。

 ⇒Xは損害賠償請求権を有する債権者であるとは認められない。

【控訴審判決(東京高判令和元年8月7日75巻7号3416頁)】

  • 仮払によってXの買取請求権が消滅するわけではない

 ⇒XはY社の債権者である。

 ※Y社による仮払によって株式買取請求権が確定的に消滅すると解すること

→裁判所による合理的な裁量によって合理的な価格を決定するという価格決定申し立ての性質と整合せず、遅延損害金の支払いを免れさせようとした仮払制度の趣旨も超えること、株式買取請求を行った者は仮払によって支払われた額を超えることを立証できなければ債権者であると認められず、株主総会議事録の閲覧等の請求ができないとすることは、閲覧等における会社側の負担との比較においても株式買取請求を行った者に過度の負担を負わせる。

 ⇒債権者に株主総会議事録の閲覧等の請求を認めた趣旨に反する。

【本判決】

  • 株式併合によって端数となる株式について株式買取請求をした場合、会社との間で法律上当然に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることにより端数株式につき公正な価格の支払を求めることのできる権利を取得する(最決平成23年4月19日民集65巻3号1311頁を引用)。

 ⇒会社法318条4項にいう債権者に当たる。

※株式買取価格については買取請求をした者と会社との間の協議または裁判によって決定されることから、上記協議が調いまたは上記裁判が確定するまでは、この価格は未形成というほかなく、仮払によって上記価格の支払請求権が全て消滅したということはできない。

また、仮払と株主総会議事録の閲覧等の請求との関係については、会社法318条4項の趣旨を、株主および債権者において権利を適切に行使し、その利益を確保するために会社の業務ないし財産の状況等に関する情報を入手することを可能とし、もってその保護を図ることにあるとしたうえで、仮払を受けていたとしても前述したとおり協議が調いまたは裁判が確定するまでは買取価格が未形成であることから、適切な対価の交付を確保するため会社の業務ないし財産の状況等を踏まえた合理的な検討を行う必要がある点においては仮払前と変わるところがなく、上記情報の入手の必要性は失われない。


3 株式買取請求をした者の債権者該当性と本判決の評価

本件の問題点を改めてまとめると以下の①・②となります。

  • ①.株式併合によるキャッシュアウトがなされ株主としての地位を失った者は株主総会議事録の閲覧および謄写請求の出来る債権者であるのか
  • ②.①の請求者に対して株式会社が仮払した場合も株主総会議事録の閲覧および謄写請求の出来る債権者に該当するのか

上記①・②の債権者該当性につき、第1審判決は①を否定して②については判断していないのに対して、控訴審判決および本判決は、①②いずれも認めている点で違いが存在します。

まず①についてです。

本判決が引用する平成23年最決によって株式買取請求権の行使によって売買契約成立と同様の法的拘束力が発生するとされているため、反対株主による株式買取請求は会社に対する債権となります(得津晶「本件判批」法教494号137頁)。

また、債権が特定されており、かつ、その発生原因事実が主張立証されていれば、債権額に争いがあるなどの理由により債権額を具体的に主張立証することができないとしても債権者に該当します(森川さつき「本件判批」ジュリ1571号98頁)。

一方、第1審判決のように、別訴を含めて債権の存在やその額につき終局決定されていないことを理由に債権者性を否定してしまうと、そもそも平成23年最決と矛盾することにもなりかねず、また、支払請求権という債権自体が存在していることを前提として運用される価格決定申立制度(非訟事件裁判)を合理的に説明することができなくなるため妥当ではありません(仲卓真「本件判批」ジュリ1570号89頁)。

次に②についてです。

前回解説したとおり会社法182条の5第5項が定める仮払制度は、利息の受け取りを目的とする株式買取請求を防止するために設けられたものです。

かかる制度趣旨からすると、会社から仮払がなされる意味はあくまで裁判所による価格決定までのいわば「つなぎ」に過ぎず、仮払がなされたことをもって株式買取請求者の支払請求権がすべて消滅したことにはなりません。

この点について本判決は、仮払がされたとしても買取価格自体が未確定であることから、会社と請求者との間で買取価格の協議が調うか裁判が確定するまでは債権者該当性が維持されると判示しているため、債権額が確定するまでは仮払によって債権が完全に消滅することはなく債権者に該当しなくなることもありません。

仮払による債権者該当性については、買取価格決定が会社による仮払額よりも上回った場合にだけ認められるという考え方も理屈の上では存在しますが、仮払制度が利息の受け取りを目的とする濫用的な株式買取請求の防止にあること、上記超過部分の立証責任が請求者側に課されることになること、そして、請求者による情報入手の必要性から会社法が特段の制約を設けずに広く株主総会議事録の閲覧および謄写の請求を認めている現状に対してハードルを設けてしまうことからしても、かかる考え方にもとづく運用は妥当ではないでしょう。

買取価格が確定するまでは会社によって仮払がされたとしても、株式買取請求を行った者は債権者であり続けるとする本判決の結論は基本的に妥当なものと評価できます。


4 おわりに

本件は、株式併合後に株式買取請求をし、会社から仮払いを受けた者による、株主総会議事録の閲覧および謄写請求は認められるのかが争われた事案です。

本判決は、株式併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずる場合に株式買取請求をした者は、株式の価格につき会社との協議が調いまたはその決定にかかる裁判が確定するまでは、会社が公正な価格と認める額の支払を受けたときであっても、株主総会議事録の閲覧および謄写の請求をすることができる債権者にあたると判断した初めての最高裁判決です。

こうした判断基準は株式併合以外でなされる他の株式買取請求時にも妥当するとともに、今後の実務の参考になると思われます。


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著者プロフィール

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鬼頭 俊泰

日本大学商学部 教授

日本大学大学院法学研究科博士課程前期課程修了。同後期課程満期退学ののち、八戸大学(現:八戸学院大学)ビジネス学部に着任。その後、日本大学商学部助教、准教授を経て現職。

著書に、ビジネス法務の理論と実践(芦書房、2020年)(共編・共著)、資金決済法の理論と実務(勁草書房、2019年)(共著)、インターネットビジネスの法務と実務(三協法規出版、2018年)(共著)、検証判例会社法(財経詳報社、2017年)(共著)などがある。

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