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新規事業につながるイノベーションが起きる組織と起きない組織 その2

著者: 中小企業診断士  山本 哲也

新規事業につながるイノベーションが起きる組織と起きない組織 その2

前回に引き続き「なぜ当社では新規事業が育たないのか?!」についてみなさまと一緒に紐解いていきたいと思います。

前回は、人的リソースの側面で考えましたが、第二弾の今回は、組織の側面から見てまいりましょう。


はじめに

近年、大企業だけでなく経済産業省も本腰を入れて“新規事業開発”に取り組んでいる様子が、報道や白書などからもうかがえます。また、巷ではたくさんのスタートアップイベントが行われ、大企業がCVCを作り、ベンチャー投資は盛り上がっています。

加えて、コロナによって大きく変化した外部環境への対応や補助金制度の創設など、日本中の中小企業で新規事業に取り組む雰囲気が醸成されつつあります。

一方で、企業担当者からは・・・

  • 「会社のお金で遊んでいると思われている」
  • 「社内から奇異の目で見られてつらい・・・」
  • 「自分でも手ごたえがない。相談すべき先駆者がいない」

などネガティブな声が多く聞かれます。

では、“成功”と評価されている新規事業開発の現場では一体何が起きていて、“失敗”と評される事例にはどのような原因が、そして解決策があるのかについて、考えていきたいと思います。


誰と何をどのように比較しているのか?

このコラムをお読みなっているということは、あなたのチーム(新規事業チーム)の社内での評価は決してあなたの望む状態ではないのでしょう?

そんなあなたにいま一度、確認していただきたいことがあります。他者からの評価があるということは、必ず何かと比較しているはずですが、そこを確認したことがあるでしょうか?

本当によくあるミスですので先にお伝えしておきますが、「比較対象とすべきは、他社の新規事業開発チームであって、自社の既存事業組織ではない」はずです。

なぜなら、評価は現状分析であり対策検討のための行為だからです。つまり、同じカテゴリの業務を同じ内外環境(リソースや経済環境)の下で比較して初めて、うまくいっていない要因分析ができ、対策を検討できるのです。

具体的には、自社の既存組織と新規事業開発組織を比較するということは、バスケットボールとサッカーとを比較しているようなものです。同じ球技ですが、ルールも必要なリソースも全く異なっています。これを比較して、サッカーチームに対して「ちっとも点数が入ってないじゃないか?何をやってるんだ?!」と言っているようなものです。

さて、この厄介な現状に対して私たちが取れる対策には、どのようなものが考えられるでしょうか?


「組織は戦略に従う」べき?

既存事業はすでにビジネスモデルが一定程度規定されており、社内に文化として根付いていることがほとんどです。ですから、若手から新たな提案が上がってくると、「そんなの前例がない。邪道だ」「他社から馬鹿にされる」「○○という新たなデメリットがある」などと反対意見が上がるのです。

つまり、ゲームのルールが決まっているということは、うまくいかなかった場合の要因はある程度の範囲に限定されています。

経済環境や顧客の変化など外部に要因があるケース。販売促進活動や営業活動の質と量が不足しているケース。需要予測や商品調達上のミスなどに要因があるケース。

登場人物も自社、主要顧客、競合他社くらいのものでしょうか。つまり、要因分析と対策立案は、限られた範囲で検討すればよく、ゲームとしては比較的簡単にしぼり込めるのです。もちろん、その分深掘りが必要で、そのための専門性が求められることになり、別の大変さがありますが。

対策については、ここまでお読みいただき、だいたい想像がついたと思います。人事制度と同様に、組織の分析・対策案検討も別のルールで行うべきなのです。

手っ取り早くできることはないのか?

ここまでは、当たり前の話をしてまいりました。「それができれば苦労しない」という声が聞こえてきそうです。そんなみなさまのために、ここからは少し王道から離れて、脇道(私の経験上の話)にそれてみましょう。

組織やルールを変更することは容易なことではありません。なぜなら、それを握っているのは、既存事業で実績を上げてきた先輩方だからです。

バスケットボールで活躍し実績のある監督が、体育館の隅でボールを蹴っているサッカー選手たちのために新たなルールを作るでしょうか?それは、相当覚悟のいるジャッジだと思います。(それが、サッカーという新しい球技になるかどうかすらも誰にもわからないわけですしね。)

では、私たちにできることはないのでしょうか?

私たちは、往々にして小さなチームにいます。そんな私たちが活かすことのできる武器は「スピード」と「外部リソースの活用」です。

つまり、既存事業とは違うテンポやスピードで開発を進めていくことです。そうすることによって、既存事業の尺度では物事を図れないということを理解してもらうのです。または、よくわからないうちに開発を前へ進めてしまうのです。

先述の事例に当てはめると、バスケットボールのコートを横切るようなプレーをしたり、コートの真上を使ったりするようなイメージですね。

既存事業とは違う「スピード」で小さな実験を繰り返すことや、外部の有識者・大学などの研究者・業務連携先などの「外部リソース」の力を借りて、今までにない様式を持ち込み、後に引けなくしてしまうのです。


抜本的な解決は、分けること

このように何につけ、たくさんの違いがある既存事業と新規事業開発。業務内容やその先の事業内容も異なってくることが予想されるため、当初から人事制度と同様に分けてしまうことをお勧めします。

既存事業の組織と新規事業の組織を分けている企業は、すでにたくさんあります。すでにその先に進んでいる企業は、さらに新規事業の組織を2つに分けています。

事業アイデアや領域、顧客課題が明確になっているチームと、それらがまだ未確定な探索段階にあるチームとに分けます。

なぜなら、新規事業チームと探索段階にあるチームでは業務内容が違うからです。兆しが見えた段階で、もっとも合理性の高いチームに合流させれば良いので、それまでは別のチームで進めるのです。

3つの組織は、それぞれに違う役割を担います。

まず、既存事業組織。こちらは、今の組織を支えることが最大のミッションにとなり、加えて新規事業開発に必要な投資キャッシュフローを稼ぐことがミッションです。ですから、その成果は、P/Lで検証します。求められる変化は一定のルールの中に収め、大きな冒険は許されません。

次に、新規事業組織。こちらは、ローンチが済み、先行他社や今後現れる新規参入や代替品の脅威に打ち勝つことがミッションです。ですから、その成果は売上で検証します。昨対比どれくらい伸長したか?マーケットの拡大比率とくらべてどうか?という基準になります。既存事業とのシナジーなどもアピールポイントになりえます。

一方で、新規事業開発チーム。こちらは、事業開発の種や苗を探すことがミッションです。

評価基準は、どれだけ、顧客のインサイトに迫れたか?実証実験をどれだけ行い、どんな検証ができたか?です。決して「アイデアの質の良し悪し」ではありません。なぜなら、評価基準を持ち、評価できる人は社内にはいないからです。


まとめ

今回は、新規事業につながるイノベーションが起きる組織と起きない組織について紐解きつつ、新規事業開発を成功させるには?について一緒に考えてきました。

自社と比較しつつ、じっくりお読みいただければ、とてもシンプルな当たり前のことばかりだとご理解いただけたと思います。

人事制度や組織構造を、それぞれ必要な機能によって分類・分割することを勧めてきましたが、もちろん、分割によって何らかのデメリットも発生します。

しかし、そのデメリットについても、新しいことを実行しない場合に生まれるデメリットと比較した上で評価する必要があります。

みなさまの組織が、現状どの段階にあり、新規事業にどの程度のリソースを割くべきか?についても、これを機に再検討いただければ幸いです。

チャンドラー先生は、「組織は戦略に従う」として、組織のあり方は、まず目的とそれを達成するための戦略が先行しなければならない、と説いています。

つまり、新規事業開発をストップし、既存事業の立て直しに全リソースを傾けるべき企業もたくさんありますから、まずは自社がどの戦略を取るのかの意思統一が第一歩というわけです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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著者プロフィール

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山本 哲也

中小企業診断士

PROFILE
ライター,コンサルタント
1966年生まれ,大阪府大阪市出身。
1998年ビルクリーニング技能士取得
2019年年中小企業診断士登録
総合サービス事業会社にてオープンイノベーションによる新規事業開発を担当。得意分野は新規事業開発、事業企画、営業チームビルディング、フランチャイズビジネス

お問い合わせ先
株式会社プロデューサー・ハウス
Web:http://producer-house.co.jp/
Mail:info@producer-house.co.jp

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