自己資本比率の計算方法とは? 目安や高める方法を解説
「自己資本比率」は企業の安定性を計る指標です。
ではどのように導き出すのでしょうか。また、数値から何が見えるのでしょうか。
本記事では、貸借対照表を基に自己資本比率を算出する方法や、安定経営の目安となる数値を解説します。
自己資本比率が低くなる要因や高めるための施策、「自己資本利益率」(ROE)との違いも紹介します。
自己資本比率の計算方法
「自己資本比率」とは、総資本に対する自己資本の割合のことです。
企業の財務面における安全性を見るための指標となるものであり、自己資本比率が高いほど経営は安定し、倒産しにくいと判断できます。
資本は企業経営のために集めたお金のことで、「自己資本」と「他人資本」に分けられます。
貸借対照表(バランスシート)の右側にある負債の部が他人資本、純資産の部が自己資本に当たります。
自己資本には資本金や株主資本、利益剰余金などが該当し、これらは返済する必要がない資本です。
一方、他人資本は、借入金などの負債であり、返済しなければならないものです。
つまり自己資本比率は、総資本のうち「返す必要のないもの」がどのくらいあるかを表したもの、と言い換えることができるでしょう。
自己資本比率は以下の計算式で導き出します。
自己資本比率(%)=自己資本÷総資本(他人資本+自己資本)×100
【例】
- 自己資本:1,000万円
- 他人資本:1,500万円
- 資本(自己資本+他人資本):2,500万円
- 自己資本比率:1,000万円÷2,500万円×100=40%
業種別に見る自己資本産比率の目安
経済産業省・財務総合政策研究所が実施する「法人企業統計調査」(2019年度)によると、自己資本比率の全産業平均は42.1%です。
(参照URL:「法人企業統計調査」(2019年度))
ただし、自己資本比率は業種や規模ごとに異なります。
以下に、主な業種の自己資本比率を抜粋して示します(2019年度 法人企業統計調査)。製造業のように多様な事業が含まれる場合は、事業ごとの平均値もチェックしたほうがよいでしょう。
- 建設業……39.8%
- 製造業……49.0%
- 情報通信業……54.1%
- 運輸業・郵便業……36.4%
- 卸売業……35.0%
- 小売業……36.8%
- 不動産業・物品賃貸業……29.7%
- 宿泊業・飲食サービス業……24.8%
あくまでも目安ですが、自己資本比率は少なくとも30%確保しているのが望ましいとされます。
40%前後であれば安定していると考えられ、50%以上あれば優良企業であると見なされます。
自己資本比率が低くなる原因
企業の自己資本比率が低い場合、金融機関から信用を得られにくくなります。資金調達が難しくなることで、経営が悪化する悪循環に陥りかねません。
自己資本比率が低下する原因としては、他人資本の増加、あるいは自己資本の減少があります。
他人資本が増加している
借入金や社債といった他人資本が増えると、自己資本比率は低下します。
負債には、支払手形・買掛金・短期借入金・社債・退職給付引当金などの項目があります。
この中で短期借入金が多くを占めるケースは、一時的に自己資本比率が下がっているだけの場合が多く、その後すぐに回復することもあります。そのため、単に「自己資本比率が低い企業には問題がある」とは言い切れません。資産や負債の中身を細かく確認しましょう。
自己資本比率が低下した原因が他人資本増加の場合、具体的にどの項目が増加したのかを確認した上で対策を講じる必要があります。
例えば買掛金が多い場合は回収のスパンを短くしたり、借入金が多い場合は返済を早めたりするなどの対策が求められます。
赤字が発生している
支出が収入を超えてしまい利益が出ない状態を表す、いわゆる「赤字」は、自己資本比率をダウンさせる大きな要因です。赤字が出た場合、利益剰余金から補填します。そのため、自己資本の割合が減少し、自己資本比率の低下につながるのです。
赤字の状態が続くと、「純資産の部」の合計金額よりも「負債の部」の合計金額が大きい状態、つまり債務超過に陥ります。
債務超過の場合、銀行からの資金調達が非常に難しくなります。また、債務超過時は自己資本がマイナスになるため、自己資本比率も「-〇%」と表される状態になるのです。
自己資本比率を高める方法
自己資本比率を高めるには、「総資本を少なくする」「自己資本を増やす」という方法があります。
自己資本が増えると総資本も増えるため、どちらか一方ではなく両方の施策を同時に進めるのが理想的です。
総資本を圧縮する
まず総資本を少なくする方法ですが、これは他人資本を減少させることで実現します。
不要な固定資産などは処分し、できる限り借入金を返済するようにしましょう。また、不良債権や不良在庫を処分することも総資本の圧縮につながります。
自己資本の割合を増やす
自己資本を増やす方法としてまず考えられるのが、事業で利益を出して黒字化させることで利益剰余を生むことです。
他にも、自己資本金を一気に増やす方法として「増資」があります。出資された現金で負債を返せば総資本の縮小が可能です。
しかし増資には時間やコストがかかるほか、資金がスムーズに集まるとは限りません。また、増資によって一時的に自己資本比率をアップさせたとしても、企業体質が根本的に改善されるとは限りません。
増えた自己資本を設備投資に回したり、新規事業をスタートさせたりするなど、利益を生み出す事業計画とセットで考える必要があります。
自己資本比率が高すぎることの懸念点
自己資本比率は、高いほど良いとは限りません。自己資本比率を上げることばかりを意識すると、思わぬリスクを抱えることもあります。
金融機関からの信用が低い可能性がある
自己資本比率が高いからといって、経営が健全であるとは判断できません。
金融機関からの信用が得られずに借り入れができなかったり、外部からの資金調達ができない、といった理由で他人資本がないケースもあります。
そのような企業は、自己資本を使い切った時や、必要なタイミングで融資を受けられない場合に、経営が一気に傾くリスクを抱えているのです。
利益拡大のチャンスを逃してしまう可能性がある
自己資本に大きく依存する経営スタイルは、一方で設備投資や先行投資が少なく、積極性に欠けるという見方もできます。また、過剰なコストカットによって負債の圧縮が実現できる半面、企業の体力が奪われてしまうリスクも考慮しなければなりません。
目先の指標を重視するあまり、先行投資を行わずに将来の事業拡大のチャンスを逃してしまうと、経営が悪化する恐れがあります。
自己資本利益率と自己資本比率の関係
自己資本比率と似た言葉に「自己資本利益率」(ROE:Return On Equity)があります。
Equityとは株主資本のことです。
自己資本利益率は、株主資本を用いてどれだけのReturn(利益)を生み出したかを判断する指標で、株主(投資家)が投資効率を判断する際にチェックします。
自己資本利益率の計算式は以下の通りです。
自己資本利益率(ROE)=当期純利益÷自己資本×100
【例】
- 自己資本:1億円
- 1年間で得た純利益:1,000万円
- 自己資本利益率(ROE):1,000万円÷1億円×100%=10%
通常、自己資本利益率が高いほど企業が効率的に自己資本を運用して利益を生み出していると判断できます。逆にROEが低いほど経営効率の悪い会社であると見なされます。業種により異なるものの、優良企業とされる自己資本利益率の目安は10%ほどです。
自己資本利益率を高めることによって、投資家から経営効率が良いと判断されることで投資を呼び込みます。
それは企業の成長と安定経営につながり、自己資本比率の向上に寄与するでしょう。
自己資本比率にはバランスが重要
企業経営にとって安定性は魅力的ですが、そればかりに目を向けているとビジネスチャンスを逃し、企業の衰退を招きかねません。時には事業拡大を目指し、融資を受けてでも先行投資をすることが必要です。
企業の成長のためには負債と自己資本を活用して事業の拡大を図るなど、ビジョンを持ったバランスのよい経営が求められます。
まとめ
自己資本比率は経営が安定しているかどうかを見るための重要な指標です。
日本の全業種の平均値は約40%ですが、あくまで目安であり、業種や企業規模によって数値のばらつきがあります。そのため、自己資本比率だけで企業の全てを判断するのではなく、貸借対照表の中身を詳細にチェックしなければなりません。
自己資本比率は、高すぎても低すぎてもリスクを抱えている可能性があります。
企業経営を行う上では、自己資本比率を重視しつつ、負債と自己資本をバランスよく活用した利益拡大を目指す姿勢が必要です。
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