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第4回 女性活躍推進の必要性-不確実な時代を生き抜く経営のために-

企業経営に女性力の活用を―不確実な時代に備えるー

第4回 女性活躍推進の必要性-不確実な時代を生き抜く経営のために-

積極的な女性活躍推進は、企業の活性化や発展に寄与するということがようやく認識され始めています。

それは、単に人手不足解消のためというだけではなく、企業経営に参画するポジションという意味での活躍推進を示しています。

最終回は、期待と不安が入り混じった不確実な現代の企業経営にあって、救世主となり得る「女性力」をどのように捉え、そして生かして行くために、今すべきこととできることを具体的にまとめてみました。


この記事の著者
高岡法科大学  教授 

女性の活躍によるプラスの効果

女性の活躍が企業業績などに好ましい影響をもたらす可能性があることは、これまで国や民間で多くの実証研究やアンケート調査で示されています。

積極的に女性の活躍推進に取り組み、女性従業員が活躍しやすい職場環境や評価システム、キャリアアップのチャンスが整うことで、経営面においてプラスの効果がもたらされるとされています。

なでしこ系企業[1]、なかでも両立支援制度を整備している企業の財務パフォーマンスは中期的に向上することが示唆され、さらに、女性役員比率や管理職女性比率が高いほど、財務パフォーマンスにプラスの影響があるという大和総研による分析結果もあります[2]

女性は出産や育児によって退職する人も確かに多いのですが、退職すると退職者分の業務は、残された他の従業員が担当するか、あるいは新規採用する必要が出てきます。

その場合、新規採用よりは残業により補うケースが多いようです。

その残業代や新規採用にかかるコスト等を含めるとコストが102万円かかるという試算があります(「女性の活躍による経済活性化を推進する関係閣僚会議」(2012.5.22)配布資料7より)。

他方、女性が就業を継続する場合は、休業中の有期雇用者に対する給与等は83万円に抑えることができ、女性が退職せずに働き続けることのできる企業の方が、コスト負担が小さくて済むという分析結果もあります。

すなわち企業は、女性が退職せずに済む環境(条件)を整えることで、コスト面でのメリットを享受できることになり、それに加えてそれまで培われた従業員のノウハウ(知識や経験)の損失を防ぐことができるということになります。


共働き世帯数の推移

今や「男性は仕事、女性は家庭を守るもの」という観念はもう古く、男性が働いて女性が専業主婦となって家庭を守る世帯数も1996年には共働き世帯数と逆転しました(図-1)。

そして2016年には共働きの世帯は、男性が働いて女性が専業主婦をする世帯の2倍近い数値となっています。女性の社会進出により、今や共働きが主流となっています。

今ここで企業意識を変化させ、女性に優しい労働環境を整備する必要が迫られているのです。

図-1 専業主婦世帯と共働き世帯の推移

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総務省「労働力調査2021」を基に作成


女性力の底力 -天の岩戸を開くとき-

女性が活躍できる環境づくり

女性が活躍できる環境づくりのためには、多様な働き方を受け入れられる環境であることや、社員一人ひとりのサポート体制をより充実させていく必要があります。

「女性従業員が働きやすい環境整備」というイメージを前面に出すことで差別化が実現でき、採用活動においてもアピールポイントとなり応募人数の増加などプラス効果が期待できます。

それだけではありません。従業員の定着率も上がるというメリットもあります。

出産や育児などを機に、仕事を続けたくても離職を選択する女性は多く、職場復帰できていない女性、いわゆる予備軍はまだまだ多いのです。

ですから、働き続けることが可能な休暇制度や復職制度を設けることで、従業員の離職を防ぐことが出来ます。

さらに、会社への満足度が上がることで、女性に限らず全従業員の定着率も安定するというおまけも付いてくるのです。

こうした働く女性予備軍を救い上げるにはどうしたらよいのでしょうか。それは先回りをして離職を防げばよいのです。

女性の退職理由と離職を防ぐ仕組みづくり

厚生労働省の令和元年度雇用動向調査結果[3]によると、離職した女性の退職理由で一番多いのは、依然として「出産・育児のため」です。

離職をせず、育児休業の活用により出産後も就業を継続する女性も増えてはいますが、離職せざるを得ない職場環境は依然として続いているのです。

ですから出産後の女性の就業意欲は高いため、いかに「出産・育児」において離職を防ぐ仕組みをつくれるかが重要となってきます。

たとえばその仕組みづくりには、出産育児休業制度や復帰後の支援制度の充実が有効です。

育児休業、子どもの看護休暇、所定外・時間外労働の制限、深夜業の制限、育児のための所定労働時間短縮の措置、育児休業等によるハラスメントの防止などを定めた「育児介護休業法」に沿った職場環境整備を進めましょう。


効果的な女性活躍の推進方法 -今、すべきこととできること-

女性力の必要性は理解できたとしても、実際のところ何から手を付けたらいいのか迷ってしまう経営者も多いと思います。

女性の活躍を推進する企業になるためには、従来の制度の見直しも必要ですが、まず経営者が「重要な仕事や管理職は男性にしか任せない」という意識を変えて、やる気と能力のある女性をどんどん起用して仕事を任せていくという積極的な意識改革が重要です。

そのうえで働き続けたいと考える女性従業員が、自分に合った働き方や仕事内容を選択することができる仕事と家庭の両立を支援する制度づくり(女性活躍推進計画策定)を進めていきましょう。

そこで、社内においてクリアすべきハードルを大きく3つに絞ります。

それは、①会社全体の状況把握、②男性従業員の意識改革、③女性従業員の意識改革の3つです。

経営者が女性活躍推進計画策定にあたってまず最初になすべきことは、基礎項目(必ず把握すべき項目)で社内状況をチェックします。

その結果、課題であると判断された事項について、選択項目(必要に応じて把握する項目)を活用し、さらにその原因の分析を深めます。

会社の女性従業員の活躍状況を正確に把握するために、女性活躍推進法第8条3項に規定する把握すべき項目は、以下のとおりです。

  • 採用した労働者に占める女性労働者の割合
  • 男女の平均継続年数の差異
  • 労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間(健康管理時間)の状況
  • 管理職に占める女性労働者の割合

以上の項目情報は、今まで努力義務であった常時雇用101人以上の企業についても令和4年4月1日から、女性活躍に関する項目1つ以上の公表が義務化されています。

本来は、全ての従業員にとって働きやすい環境を整備していく必要性があることを会社全体で意識し、取り組んでいく必要性があるわけですから、この調査は、いわば「気づき」のための調査と言えるでしょう。

たとえば、女性の採用比率に大きな問題はない場合で、男性と女性で特に差をつけているつもりはなくても管理職における女性の割合が著しく低い結果であれば、そこに何かしらの問題があるのではと考えてみれば、なぜそのような数値なのかを分析することで課題が見えてきます。

一方、「管理職になりたくない」という女性が多いという調査報告もよく目にします。

そこには、「負担が増えるだけでメリットがない」「責任を持ちたくない」「能力がない」という女性側の考えも併せて挙げられています。

これは女性自身の意識改革の必要性を示唆しています。女性社員自身が持っている「管理職へのイメージ」や「自身の能力に対する評価」に対して前向きな働きかけを行っていく必要があるのです。

図-2 女性の活躍推進の課題に対する要因(内部要因)(n=1,357)

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図-3 女性の活躍推進の課題に対する要因(本人要因)(n=1,357)

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図-4 女性の活躍推進の課題に対する要因(外的要因)(n=1,357)

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日本商工会議所・東京商工会議所「多様な人材の活躍に関する調査」調査結果より2021.9.30


女性のためのキャリア形成 -「のりしろ」ではなく「のびしろ」-

女性の採用という点では、中小企業も大企業もそれなりに積極的な採用に取り組んでいるようですが、中小企業での課題は女性を採用していないことではなく、採用後の女性のキャリア形成の機会が男性に比べて不充分であるということなのです。

俗にいう「OJT」(On the Job Training;必要なスキルや知識を、実務を通じて指導していく教育方法)は、職場での実践を通じたスキル形成や技能向上が図られるとされています。

男性と同じように職務経験を積み重ね、キャリア形成を行うことができる職場環境があれば、女性が男性と同じように知識やスキルを高め成果を出せる可能性は大きく広がります。

しかし現実は、その機会は企業規模の大小に比例するようです。

企業規模が小さくなるほど機会は少なくなり、女性が配置転換などを通じてキャリアを職場で高めていくことは難しい状況にあるとみられます。

中小企業における生産性向上の鈍化要因の一つと考えられる女性のキャリア形成機会の不十分性は、賃金水準にも影響を与えていると思われます(第2回 女性の置かれている現状-格差のはざまで-図-3参照)。

一般的に、入社して10年間はいわゆるキャリア形成の初期段階とされ、中核を担うための必要な知識や経験を習得する重要な時期と言われています。

女性が男性と同じような配置転換などの多様な機会が得られるように職場環境が整備されれば、それだけモチベーションも上がり能力を発揮しやすくなり、中小企業の生産性向上や人材確保に寄与することが期待されるのです。

中小企業での女性が働くための環境整備は大企業に比べてまだまだ遅れているといえるでしょう。

妊娠・出産・育児休業等に関する対策やハラスメント防止対策に取り組んでいる企業も増加しつつあるとはいえ、従業員数の少ない企業ほどその取り組みにはまだまだ遠い状況にあります。

しかし、中小企業においてキャリア形成上の男女格差の解消は、女性が働きやすい就労環境の整備の促進につながり、潜在的な女性労働力の掘り起こしにつながることは間違いありません。


女性が働きやすい職場づくり

女性が働きやすい職場づくりのために企業ができることはまだまだあります。

「職場環境・人間関係の配慮」、「勤務時間の柔軟化」、「時間外労働の削減・休暇取得の推進」を軸とした環境整備は、女性に限らず、男性にもあてはまる策と言えるでしょう。

どのような制度であっても、その整備には制度の周知と職場への理解がなければ意味がありません。社内における制度の周知と理解促進のためのキーマンは従業員を束ねる管理職です。

職場環境や人間関係への配慮の適任者は管理職であり、制度の理解と浸透度をより深めるために管理職に対して、両立支援マネジメント等の研修指導を推進しましょう。

勤務時間の柔軟化としては、時短勤務制度、フレックスタイム制度などが挙げられます。

「育児介護休業法」には時短勤務制度についての規定がありますが、さらに従業員個々の事情に応じて、始業・就業時間や勤務時間の選択を可能にする方法があります。

さらに、時間ではなく場所の柔軟化という考え方もできます。コロナ・パンデミックの影響もあってか、大きな働き方改革となった在宅勤務(テレワーク)も子育て中の女性にとっては福音となる制度の一例と言えるでしょう。

働き方改革推進の一つに有給休暇取得の義務化があります。

時間外労働(残業)の削減や有給休暇取得が徹底している会社は働きやすい環境にあると言えるでしょう。

気兼ねなく休暇がとれるという環境であれば、子育て中であっても気負うことなく休暇の取得ができます。

もちろん管理職が率先して休暇取得を実行することも、職場環境の改善に有効でしょう。

また、ノー残業デーを設定することや、残業の事前申請制の導入なども働く女性予備軍にとっても大変魅力的な制度となります。


助成金制度の活用

様々な取組みの必要性と具体策を述べてきましたが、どのような対応にあっても実施に係るコストを無視するわけにはいきません。

そうでなくともコロナ・パンデミックの影響による経済の冷え込みが続くなか、中小企業はコストを見直して少しでも無駄な支出を減らし、守りを固めたいと考えるのではないでしょうか。

そこで、女性活躍推進にかかるコストについては、厚生労働省の助成金制度などを大いに活用しましょう。

厚生労働省の両立支援等助成金制度

厚生労働省では、中小企業における女性活躍推進の取り組み支援するために、両立支援等助成金制度を設けています。

この制度は女性活躍推進法に基づき、会社が女性の活躍に関する数値目標、数値目標の達成に向けた取り組みの行動計画を策定し、実施した中小企業事業主に対して助成金が支給されるものです。

すなわち、従業員が育児・介護などの休暇を取得しやすい環境整備のために、両立支援等助成金制度を大いに活用することです。両立支援等助成金は、目的に応じて6つのコースに分けられています。

  • 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
  • 介護離職防止支援コース
  • 育児休業等支援コース
  • 女性活躍加速化コース
  • 新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理設置による休暇取得支援コース
  • 不妊治療両立支援コース

自治体の支援

たとえば東京都(東京しごと財団)では、人材確保等に課題を抱え職場環境が充分に整っていない中小企業に対して、働き方改革に向けた取組や雇用環境に関する課題解決に向けた事業主へ下記のような支援を実施しています。

  • 雇用創出・安定化支援に係る採用・定着促進助成金
  • 働くパパママ育休取得応援奨励金
  • 介護休業取得応援奨励金
  • テレワーク促進助成金
  • テレワーク導入ハンズオン支援助成金
  • 小規模テレワークコーナー設置促進助成金
  • 女性の活躍推進助成金

東京都だけではなく、他の自治体でも同様の施策を講じています。

えるぼし認定

このほかにも、女性活躍を推進している企業であると厚生労働省から認定(えるぼし認定)を受けると、公共調達における加点評価や日本政策金融公庫の低利融資などを得ることが可能となります。

こうした優遇措置をみすみす逃す手はありません。是非活用しましょう。


女性活躍推進はSDGsへの取り組みにつながる

今、世界で取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)には、2030年までに達成すべき17目標の一つとして「ジェンダーの平等を実現:男女平等を実現し、すべての女性と女の子の能力を広げる」ことを掲げています。

中小企業における女性活躍推進への取り組みは、SDGsへの取り組みにつながり、企業イメージの向上、ひいては企業価値そのものの向上にもつながります。


まとめ

今回は、慢性的な人材不足といわれる中小企業にあって、ピンチをチャンスに変えるため、眠れる人材である「女性力」の必要性と、経営参画への重要性について考えてきました。

そして女性が働きやすい職場づくりとして、出産の前後や子育て中の女性の離職率が高いという理由から、その職場改善(環境整備)のヒントを離職せずに、かつ子育て中でも働きやすいかどうかという視点で考えてきました。

最後に、女性が働きやすい環境づくりをすすめることは、男性にも働きやすい環境を作り出すことでもあるということをお伝えしておきたいと思います。


1 なでしこ銘柄(企業)は、東京証券取引所と経済産業省とが共同で2012年度から導入した、女性活躍推進の優れた取り組みを実施している上場企業を選定する制度。
2 大和総研「因果推論による[なでしこ系企業]の真の実力」(2019)に詳しい。2022年7月20日アクセス
3 厚生労働省「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」2022年10月6日アクセス


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著者プロフィール

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野口 教子

高岡法科大学 教授

高千穂商科大学大学院経営学研究科博士後期課程満期退学後、神奈川大学・東京理科大学(非常勤講師)、高岡法科大学准教授を経て現在に至る。

外部委員として、富山県行政不服審査会委員、砺波市行政不服審査会会長、高岡市男女平等推進市民委員会委員長、富山県自治研究センター理事などを務める。

研究分野は、会計学、経営分析を中心とした経営学

編著書として、『多文化共生時代への経済社会』(芦書房、令和4年3月)、『事業者のためのパンデミックへの法的対応』(ぎょうせい、令和2年8月)、共著書として『IFRSを紐解く』(森山書店、令和3年3月)、『会計学(第3版)』(森山書店、平成30年1月)、『大震災後に考えるリスク管理とディスクロージャー』(同文館、平成25年3月)、『工業簿記システム論』(税務経理協会、平成24年5月)などがある。

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