ワークシェアリングとは? 種類からメリット・デメリット、導入事例まで紹介!
ワークシェアリングは、一部の従業員に偏りがちな業務負担を、仕事の多い人と少ない人で分けることによって、働き方改革と雇用の創出を同時に実現できるのがメリットです。
この記事では、ワークシェアリングの基礎知識や種類、メリット・デメリットなどを解説します。
自社の業務改善を考えている経営層の方は、ぜひ参考にしてみてください。
ワークシェアリングとは
Work(仕事)をSharing(分配)する「ワークシェアリング」とは、1人の従業員が担当している業務を複数人で分けることをいいます。「仕事の分かち合い」と訳されることもあります。
ワークシェアリングの目的
ワークシェアリングが行われる目的は、特定の従業員にかかる業務負荷の集中を避けることです。
仕事が早い人や頼まれると断れない人には仕事が集中しやすくなり、長時間労働の原因になります。その状態が長く続くと、心身ともに不調をきたしかねません。このような状況を避けるため、ワークシェアリングによって仕事が多い人と少ない人のバランスを取ります。
また、それまで1人の従業員が行っていた業務を分割することで、新たな雇用が生まれる効果も期待できます。
日本でワークシェアリングが注目される理由
ワークシェアリングは、働き方改革と雇用の創出を同時に実現できる手法です。
もともとはアメリカで失業者が急増したことをきっかけに生まれた考え方で、失業者に雇用の機会を提供する手段として注目を集めました。
日本においても、長時間労働や景気の悪化による失業率の上昇といった課題があり、ITを活用しながらワークシェアリングを推進する動きがあります。
ジョブシェアリングとワークシェアリングの違い
ジョブシェアリングとワークシェアリングは、労働時間や仕事を分け合う仕組みですが、目的や運用方法に違いがあります。
ジョブシェアリングは、1つの職務やポジションを複数の人が分担して担当する働き方を指します。例えば、1つのフルタイムの仕事を2人のパートタイム労働者が分け合う形です。これにより、柔軟な働き方が可能になり、家庭との両立やスキルの活用が促進されます。
一方でワークシェアリングは、労働時間全体を調整して雇用を維持するための仕組みです。例えば、不況時に1人当たりの勤務時間を短縮し、失業者を減らすことを目指します。主に社会的な雇用維持が目的で、個人のライフスタイルよりも経済状況に対応する側面が強いです。
両者は似ていますが、ジョブシェアリングは柔軟性、ワークシェアリングは雇用維持が主な目的です。
ワークシェアリングにある4つの種類
ワークシェアリングには4つの種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
1. 雇用維持型
定年を超えた従業員を再雇用することで、新たな雇用を創出します。また、中高年層の従業員の労働時間を短縮する目的で行われるワークシェアリングでもあります。
再雇用される従業員には、仕事でやりがいを感じられ、収入源を維持できるなどのメリットがあり、企業側は経験豊富な人材を確保できます。
短時間勤務などの調整がしやすい点も企業側のメリットといえるでしょう。
2. 緊急対応型
業績悪化などの緊急時に、従業員を解雇することなく危機を乗り切る目的で行われるワークシェアリングです。
業績が著しく悪化した場合、企業はリストラによって人件費の削減をはかろうとします。従業員の雇用が失われるだけでなく、雇用したばかりの人材が流出するなど、リストラは企業と従業員の双方にとって大きな負担になります。
緊急対応型のワークシェアリングを行うことで、従業員の雇用を維持したまま、1人あたりの労働時間と人件費を削減することが可能になります。業績が回復したら労働時間を元に戻すことで、速やかに経営の立て直しをはかれる点もメリットです。
3. 雇用創出型
既存の従業員の労働時間を短縮し、その分の業務を休職中の従業員に割り当てます。雇用の創出をはかる目的で行われるワークシェアリングです。
休職中の従業員のなかには、時短であれば勤務可能な人もいます。そのような従業員に業務を割り当てることで失業対策につながります。同時に、既存の従業員の業務負荷を減らすことも可能です。
4. 多様就業型
時短勤務やフレックスタイム制、テレワークなど、多様な働き方を推進する目的で行われるワークシェアリングです。
従業員がそれぞれのライフスタイルに合わせて働ける環境を提供することは、企業にとって優先度の高い課題です。それまで、育児や介護などの事情によって働く時間が制限されていた従業員も、多様就業型のワークシェアリングによって仕事がしやすくなるでしょう。
また、フルタイムで働くことが難しい従業員のなかには、優秀な人材も数多く存在します。そのような人材を雇用できることも、企業にとってのメリットになります。
【立場別】ワークシェアリングを導入するメリット
ワークシェアリングを導入すると、企業と従業員の双方にメリットがあります。それぞれ詳しく解説します。
企業側のメリット
まずは、企業側のメリットを見ていきましょう。
コストカット
物価上昇などの外的な要因によってコストが増大すると、企業にとって大きな負担になります。また、売り上げが減少した場合も、コストカットを行う必要が出てくるでしょう。
人件費などのコストを少しでも抑えながら、業務効率の向上を目指すうえで、ワークシェアリング制度は大きなメリットになります。
従業員の満足度が上がる
ワークシェアリングによって、各従業員の作業負担が軽減でき、満足度の向上につながります。それによって、生産性の向上も期待できるでしょう。
従業員の配置がスピーディーになる
職場全体の作業負荷が高い状態では、スムーズな配置転換が難しくなります。各従業員の作業負担を減らすことができれば、適切な人材配置がスピーディーに実現可能です。
従業員側のメリット
従業員側には、次のようなメリットがあります。
雇用の維持
ワークシェアリングによって必要以上に業務量が増えることを抑制できます。その結果、雇用の維持がしやすくなります。
ワークライフバランスが保てる
ワークライフバランスを維持するうえでは、職場と家庭で過ごす時間のバランスを取ることが重要です。ワークシェアリングには、過度な長時間労働を減らし、ワークライフバランスを保つ役割もあります。
モチベーションが上がる
業務負担が減った従業員は、心身共にゆとりを持って仕事ができるようになります。新しい企画や商品の開発に前向きになったり、スキルアップを試みたりと、ワークシェアリングによってモチベーションの向上も期待できるでしょう。
【立場別】ワークシェアリング導入によるデメリット
続いて、ワークシェアリング導入によるデメリットを紹介します。
企業側のデメリット
まずは、企業側のデメリットを見ていきましょう。
生産性向上の予測が難しくなっている
近年、短時間労働などフルタイム以外の働き方が広まっています。雇用形態がフルタイムのみの場合と比較して、必ずしもワークシェアリングが生産性の向上につながるとはいえない点が、企業側のデメリットのひとつです。
引き継ぎの負荷が増えることで業務が停滞する
ワークシェアリングを行うことで、1つの業務に携わる従業員の数が増えます。元の担当者は、その分だけ業務内容の引き継ぎを行う必要があり、業務が一時的に停滞する可能性があります。
従業員側のデメリット
続いて、従業員側のデメリットを見ていきましょう。
給与が減少する場合がある
ワークシェアリングによって、それまで担当していた業務を複数人で行うことになるため、業務量が減少します。それに伴い、給与も減少することが考えられます。
格差が生まれる可能性がある
部署や職種によっては、ワークシェアリングの適用が難しいことがあります。結果的にワークシェアリングの対象になる従業員と、ならない従業員が生まれ、労働時間や給与などに格差が生まれることがあります。
企業がワークシェアリングを導入する手順
ここでは、企業がワークシェアリングを導入する手順を解説します。
1. 現状の業務状況を把握する
まずは、現状の業務状況を確認し、どの業務内容についてワークシェアリングを実施する必要があるのかを把握します。
2. 業務の無駄を見直す
現状を踏まえて、必ずしも行う必要がない業務や、重要性が低い業務がないかどうかを洗い出します。
3. ワークシェアリングが実行可能かどうか判断する
ワークシェアリングを行うことが可能かどうかは、業種や業務内容によって異なります。場合によってはワークシェアリングの導入によって業務が停滞する可能性もあるため、実行可能かどうかを業務ごとに判断しましょう。
4. マニュアルを作成する
ワークシェアリングを行うために必要なことをまとめたマニュアルを作成します。引き継ぎをスムーズに行うことができるようになり、業務が停滞することを防止できます。
5. 実施後の検証を行う
実際にワークシェアリングを行い、実施したことでわかった効果や課題点などを洗い出します。その情報をもとに、運用方法を改善するサイクルを回しましょう。
ワークシェアリングに使用できる助成金
ワークシェアリングの導入にあたっては、雇用の維持や創出、教育訓練等を促進するために助成金が用意されています。
ここでは、以下の主な助成金についてそれぞれ詳しく解説していきます。
- 雇用調整助成金
- 労働移動支援助成金
- 人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)
- 働き方改革推進支援助成金
導入に興味があってもコスト面での不安を抱える企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。
雇用調整助成金
雇用調整助成金とは、失業予防を目的として、景気の変動による事業縮小を余儀なくされた場合、休業手当や賃金、出向労働者に係る賃金負担額の一部を助成する制度のことです。
例えば、労働時間を短縮した結果として支払う休業手当や、業務縮小時の教育訓練の実施費用の一部を助成金が補填します。これにより、企業は従業員を解雇せずに雇用を維持しやすくなります。
労働移動支援助成金
労働移動支援助成金とは、事業規模の縮小によって離職を余儀なくされた労働者に対して、再就職支援やその受け入れを行う事業主に助成金を支給する制度のことです。
労働移動支援金には、以下の2つの種類があります。
- 再就職支援奨励金
- 受入れ人材育成支援奨励金
この制度では、転職させる企業だけでなく受け入れる企業にもメリットがあるため、労働者の雇用安定のために一度検討してみてください。
人材開発支援助成金(旧キャリア形成促進助成金)
人材開発支援助成金は、企業が従業員の職業能力を向上させるための訓練や教育を行った場合、その費用や賃金の一部を国が助成する制度です。
特にワークシェアリングを導入する際、この助成金を活用することで、労働時間短縮中の従業員を対象にスキル向上のための訓練を実施し、雇用の質を向上させることができます。
たとえば、業務量の減少で勤務時間が削減された従業員に対し、職業訓練や資格取得の支援を行うことで、短縮期間中でも能力を高め、将来の業務拡大時に即戦力として活躍できるようになります。
助成金の対象には、OJT(職場内訓練)やOFF-JT(職場外訓練)などが含まれ、訓練費用や受講中の賃金も一部補填されます。上記のコースにおける要件と助成額は、それぞれ異なるため事前に確認しておきましょう。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、企業が働き方改革を進めるための取り組みに対し、経費の一部を助成する制度です。この助成金は、特にワークシェアリングの導入を促進するために活用できる仕組みがあります。
例えば、ワークシェアリングの一環として「労働時間の短縮」や「有給休暇の取得促進」「テレワーク環境の整備」などに取り組む場合、関連する設備投資や運用費用の助成金受給が可能です。
この助成金は、働き方改革に基づく取り組みを計画的に進める企業に対し、最大で数百万円の助成を行うケースもあります。
ワークシェアリングの効果測定
ワークシェアリングを継続的に運用するために、導入後はどのような変化が起きているのか効果の測定をすることが大切です。
ここでは、効果測定の方法として、従業員満足度調査と目標達成率確認について紹介します。
従業員の満足度調査
ワークシェアリングの導入後、従業員満足度調査を実施することで、その効果を把握できます。調査では、労働時間や業務負担の変化が従業員の働きやすさや生活の質に与えた影響を測定しましょう。
具体的には、仕事と家庭の両立、健康状態、ストレスレベル、職場環境への満足度などをアンケート形式で評価します。満足度が向上していれば、ワークシェアリングによる柔軟な働き方が従業員のニーズに合致している証拠です。
一方、満足度が低下した場合は、分担の不均衡やコミュニケーション不足が原因となっている可能性があり、改善の余地があるかもしれません。
継続的な調査を行うことで、導入初期から時間経過に伴う効果を比較し、ワークシェアリングが従業員の働きがいにどう寄与しているかを定量的に評価できます。
また、従業員満足度が高いことをアピールできれば、自社の競争力強化にもつながるでしょう。
目標達成率の確認
ワークシェアリングの効果を目標達成率で測定する方法は、業務パフォーマンスや生産性への影響を分析するために有効です。導入前に、チームや個人ごとに具体的な業務目標を設定し、その達成率を定期的に評価します。
例えば、売上目標、プロジェクトの進捗率、サービス提供の質などの定量的な指標を用いて、ワークシェアリングが効率や成果に与えた影響を可視化しましょう。目標が達成されていれば、業務分担や労働時間調整が適切に機能していると判断できます。
また、目標未達成の場合は、業務引き継ぎの不備やコミュニケーションの課題が考えられるため、対策を講じましょう。
ワークシェアリングを導入した企業事例
ここでは、実際にワークシェアリングを導入した企業の事例を紹介します。自社での取り組み方を考える際の参考にしてください。
トヨタ自動車株式会社
自動車メーカーのトヨタ自動車株式会社は、2009年に自動車の販売台数が減少したことを受けて、6つの工場に時短勤務制度を導入しました。時短勤務によって従業員の雇用を維持しながら、売り上げの減少をカバーした事例です。
TOWA株式会社
半導体メーカーのTOWA株式会社は、半導体業界が不況に陥った2000年頃に従業員の稼働日数を週4日にする対策を行いました。トヨタ自動車株式会社と同じく、雇用を守るためのワークシェアリングの事例です。
まいばすけっと株式会社
イオン系食品スーパーの「まいばすけっと」は、休業中の飲食店から人材を受け入れるワークシェアリングを実施しました。「飲食店の業績悪化」という緊急事態に対応したという意味では、緊急対応型のワークシェアリングの事例といえるでしょう。
株式会社ベネッセコーポレーション
通信教育や出版などの事業を手掛ける株式会社ベネッセコーポレーションは、子育て中の従業員が働きやすい環境を整える目的で、1992年から短時間正社員制度を導入しています。時短制度の先駆的な役割を果たした企業といえるでしょう。
BMW
BMWは2008年の金融危機時に、ワークシェアリングの導入を行い、大規模な解雇を避けながら生産体制を維持しました。具体的には、従業員の労働時間を削減することによってコストを抑えつつ、雇用を守る施策を取ったのです。
この際、ドイツ政府の支援制度を活用し、労働時間の短縮にかかる費用を一部補助金として受けることで、従業員の雇用継続を実現しました。
フォルクスワーゲン
スウェーデンでは、企業が経済的な困難に直面した際にワークシェアリングが積極的に導入されています。フォルクスワーゲンのスウェーデン工場は、1990年代の景気後退時にワークシェアリングを実施しました。
労働時間を短縮し、従業員の雇用を守るために政府からの助成金を活用する形で、従業員の解雇を回避したのです。
ワークシェアリングについてのまとめ
ワークシェアリングの大きな目的は、自社の従業員が長く、いきいきと働ける場を提供することです。
企業が経営を続けていくと、業績悪化などの危機に直面することもあるでしょう。そのような場合でも、ワークシェアリングによって雇用を維持し、危機を脱したら速やかに経営を立て直すことが可能になります。
企業と従業員の双方にメリットがあるワークシェアリングを、ぜひ導入してみてはいかがでしょうか。本記事で紹介した事例を参考に、自社で実現できそうなことから始めてみてください。
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