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取引先の株を買ったらインサイダー取引? 要件や注意点を解説

監修者:紫葵法律事務所 弁護士  幡地 央次

取引先の株を買ったらインサイダー取引? 要件や注意点を解説

「インサイダー取引の禁止」とは、上場会社の内部者や、内部者からインサイダー情報を伝えられた者が、公表前にその会社の株式等を売買してはならないというルールです。

では、自社ではなく取引先の株を購入する場合はどうなるのでしょうか。

取引先の株を購入する場合でも、条件によってはインサイダー取引に該当するので注意が必要です。

この記事では、取引先の株を取得した際にインサイダー取引に該当する要件や、購入時の注意点について解説します。

ぜひ参考にしてください。



取引先企業の株を取得するとインサイダー取引に該当するのか

取引先企業の株式を取得・売却する場合にも、インサイダー取引に該当することがあります。

インサイダー取引の内部者(会社関係者、公開買付等関係者)には、上場会社だけでなく取引先企業に勤務する役員や従業員も含まれます(金商法166条1項4号、167条1項4号)。

取引や交渉を進める中で上場会社に関する重要事項を知った場合、情報が公開される前に株式を売買すれば、インサイダー取引に該当します。

具体的には、上場会社が一定割合以上の余剰金配当をしようとしている事実を知った場合などです。

とはいえ、インサイダー取引にはいくつか要件がありますので、該当しないケースでは取引を行っても問題ありません。

たとえば、次のようなケースではインサイダー取引に該当しません。

  • 取引先企業が予定している配当額が、前年度の1株あたりの配当額より20%以上増えない(金商法166条2項1号、取引規制府令49条1項4号)
  • インサイダー情報がすでに公開されている

取引先の株を買う場合に、インサイダー取引に該当する要件

ここでは、取引先の株を買うときにインサイダー取引に該当する要件を4つ紹介します。

なお、本章で紹介する内容は、「会社関係者」に関するインサイダー取引(金商法166条)の要件であり、「公開買付等関係者」(同167条)のインサイダー取引の要件ではありません。

1. 上場会社等の役員や従業員等の「会社関係者」であること

インサイダー取引が適用される「会社関係者」は、金融商品取引法166条1項でその範囲が定められています。

会社の「従業員」には、正社員のみならず契約社員やアルバイト、パートも含まれます。

たとえば、経理担当のパート従業員がインサイダー情報を知った場合、パートだからといって株式を自由に売買できるということにはなりません。

また、一定以上の株式数を有する株主や取引銀行、顧問弁護士なども、インサイダー情報を知りうる者として会社関係者に含まれます。

出典:e-Gov|金融商品取引法

2. 投資者の投資判断に重大な影響を与える重要事実にあたること

インサイダー取引規制は、内部者がインサイダー情報を利用して利益を得ることで、証券市場の公正性・健全性に対する投資家の信頼が失われるのを防ぐためのものです。

そのため、投資者の投資判断に重大な影響を与えない事実を内部者が知ったところで、規制の対象にはなりません。

重要事項の範囲については金融商品取引法166条2項に規定があり、次のような事実が挙げられています。

  • 決定事実:会社が剰余金の配当を決定したなど
  • 発生事実:災害によって損害が発生したなど
  • 決算情報:売上高につき決算値が予想値を上回るなど

また、バスケット条項と呼ばれる包括的な規定があります。

これは、「上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」と規定されており(金商法166条2項4号)、具体的な事実は挙げられていません。

どのような事実がバスケット条項に該当するかについては、若干難しい判断を要します。

3. 職務等を通じてインサイダー情報を知ったこと

インサイダー情報を入手した経緯によって、インサイダー取引に該当するかそうでないかが変わるため注意が必要です。

上場会社等の役員や従業員に関しては、「その者の職務に関して知ったとき」と規定されています(金商法166条1項1号)。

そのため、経理担当の従業員が職務と無関係に、たまたま自社のインサイダー情報を聞いてしまった場合は、インサイダー取引の対象とはなりません。

ただし、情報発信者に伝達意志があると認められる場合に、情報を受け取った者は情報受領者としてインサイダー取引規制が適用されます(金商法166条3項)。

4. インサイダー情報が公表される前であること

インサイダー情報が公開されてしまえば、証券市場の公平性・健全性に対する投資者の信頼が失われることはありません。

そのため、インサイダー取引は情報が公開される前の取引のみを規制しています。

情報の公表については、「2以上の報道機関に対する公開後12時間の経過」など、金融商品取引法166条4項に規定があります。

ただし、次のような上場会社が自ら所定の公表措置をとっていない場合は、金商法上の公表にはあたらないので注意が必要です。

  • 新聞や週刊誌で取り上げられた
  • ネットやSNSに情報がアップされた

5. 「特定有価証券等」の「売買等」を行うこと

上場会社が発行する有価証券には、株式以外にも社債や新株予約権など、さまざまなものがあります。

インサイダー取引で規制されているものは「特定有価証券等」と定義されています(金商法163条1項)。

当該上場会社等の株式等を含んだ投資信託については、原則としてインサイダー取引規制の対象外とされているのがポイントです。

また、インサイダー取引規制の対象となるのは売買等であり、「特定有価証券等」(株式など)を買うだけでなく、売ることも規制されています。

一度でも株式などの売買を行えば、後の行動にかかわらずインサイダー取引が成立するということです。

株式などの値上がりを見込んで購入したけれど、実際には値上がりしなかったという場合や、値上がりはしたが売却せずに持ち続けた場合についても、インサイダー取引が成立します。


取引先の株購入時の注意点

インサイダー取引のルールに違反した場合には、課徴金の制裁や刑罰に処せられる可能性もあります。

規定がやや複雑であるため、いわゆる「うっかりインサイダー」にあたらないよう注意しなければなりません。

「取引先の株式の購入は一律に控えた方が無難である」などの声を聞くことがある一方で、金融庁が「インサイダー取引規制に関するQ&A」で公表しているとおり、株式投資などの過剰な抑制は、安定的な資産形成の観点からも決して好ましいものではありません。

これらの内容をふまえたうえで、取引先の株式などを購入する場合の注意点についてわかりやすくまとめたので、ぜひ参考にしてください。

1. 該当する要件

要件については、次の内容に該当するかどうかを順に検討していきます。

  • 内部者(会社関係者、公開買付等関係者)
  • インサイダー情報(重要事実や公開買付等の実施に関する事実など)
  • 職務等に関して知ったか
  • 特定有価証券等

要件に該当しない場合は、インサイダー取引にあたりません。

その中でも、バスケット条項に該当するかについては判断に迷うこともあるでしょう。

心配であれば、自社の担当部署に相談したり、外部の専門家の意見を聞くと安心です。

2. 取引先との契約期間

取引先との契約期間中以外にも、交渉段階の契約前や契約終了後6ヶ月又は1年間はインサイダー取引規制が及ぶため、注意が必要です。

いずれにせよ、自身が知った情報をもとに取引するのが「ズルいかどうか」を軸にして、判断するのが大切と言えます。

「もしかしてズルいかも」と思ったときは、少し立ち止まって第三者に相談するなど、インサイダー取引の要件に該当するかどうかを丁寧に検討する必要があるでしょう。


取引先のインサイダー取引についてのまとめ

取引先の株を売買する際にも、インサイダー取引に該当する可能性があるので注意が必要です。

要件は細かく設定されており、バスケット条項など判断が難しいものも存在します。

取引先の株を売買するときは、自社の担当部署や外部の専門家など、第三者に相談すると安心です。

「うっかりインサイダー取引に該当していた」ということにならないよう、注意して取引を行いましょう。


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監修者プロフィール

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幡地 央次

紫葵法律事務所 弁護士

京都弁護士会消費者保護委員会にて、金融サービス部会等に所属し、最近の証券、先物被害について研究。また、実際の事案についても、生命保険や仮想通貨関係の事件を多く取り扱い、消費者被害の救済に尽力している。令和元年8月より現事務所を開業し、現在に至る。

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