訓告処分とは? 他の処分との違いや流れ、事例までわかりやすく解説!
訓告処分とは、企業の従業員や国家公務員、地方公務員が対象となる処分方法の一つです。訓告処分は、処分を受けた従業員がその撤回を求め、訴訟を起こすケースがあります。
企業の担当者は訓告処分を正しく理解し、正確な手続きをしなければなりません。
この記事では、企業の経営層に向けて、訓告処分の概要や他の処分との違い、手続き方法、注意点などを解説します。ぜひ最後までご覧ください。
訓告処分とは?
訓告処分とは、従業員が職務上の規則違反や不適切な行動をした際に企業が口頭または文書で厳重注意する軽度な懲戒処分です。
この処分は就業規則に基づき、最も軽い懲戒処分として位置づけられ、従業員にその行為を改めさせ再発防止を図ることを目的としています。文書での訓告が一般的ですが、企業によっては始末書の提出を求められることもあります。
訓告処分の意味は、公務員と企業で異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
企業における訓告処分の意味
訓告処分は、企業の秩序を破る行動をした労働者に、口頭や文書で注意する懲戒処分の一種です。多くの企業は訓告処分を就業規則に規定しており、訓告を戒告と定めている場合もあります。
そして、訓告処分は懲戒処分のなかで最も軽い処分に当たることが多いでしょう。日常的な注意や指導を続けたにもかかわらず、反省の様子が見受けられない場合に訓告処分がなされることがあります。
この場合、反省の念を記した始末書を労働者が書き、提出することがよく求められます。訓告処分の詳細内容は、各企業の就業規則に記載された訓告の規定でチェックしましょう。
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懲戒処分とは? 種類や定義について解説!公務員における訓告処分の意味
公務員における訓告処分は、懲戒処分ではなく、懲戒処分になる前の注意などを意味することが多いでしょう。公務員における最も軽い懲戒処分は戒告で、法律で明記されています。
なお、公務員が何か就業に関する規程の違反などを犯した際、免職や停職、減給、戒告の処分などが考えられます。
(出典:国家公務員法 82条第1項)
(出典:地方公務員法 29条第1項)
訓戒処分と厳重注意・戒告などとの違い
大半の企業では、就業規則で次のような懲戒処分が定められています。
訓告や訓戒などは、一般的に企業で最も軽度な懲戒処分を示し、それぞれの名前の違いは企業により異なります。基本的な内容に大きな差はありません。
一部の企業では訓告が、戒告よりも軽度な懲戒処分で扱われていることもあります。なお、公務員における戒告は懲戒処分に該当しますが、厳重注意や訓告は特別重大ではない問題に対する処分方法です。
(出典:厚生労働省 懲戒処分の基準等)
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戒告とは? 内容や処分をする際の手順、注意点を解説訓告処分をおこなうときの手順とポイント
訓告処分をおこなうときの手順とポイントをまとめました。ぜひ参考にしてください。
1.問題行為・事実関係の調査
労働者に対して訓告処分したいとき、まずは問題行為を調査し、証拠を集めましょう。調査や証拠の集めが不十分だと、あとで労働者から訓告処分が無効だと異議が申し立てられた場合、問題行為の証明ができず、訓告処分が無効になるケースがあります。
- タイムカード
- セクハラやパワハラなどでは、被害者や関係者から情報を得るためのインタビュー調査
なお、インタビュー調査する際は、その内容を書面にし、署名や捺印をもらっておくとよいでしょう。
2.就業規則・訓戒処分の内容確認
訓告処分を下す前に、就業規則で訓告処分が許されていることを確認しましょう。万が一、訓告処分を認める記述が就業規則になければ、訓告処分できません。
その場合は、他の種類の処分を検討してください。
訓告処分ができる場合、問題行為が就業規則に記載されている「訓告が可能な事由」に該当するかどうか、集めた調査や証拠に基づいて検討します。
3.懲戒処分の手続きを確認
懲戒処分するとき、就業規則や労働協約でその手続きがどう定められているかをチェックしましょう。
例えば「懲戒委員会」を設けたうえで、懲戒処分するかどうかを審議するというルールがあるかもしれません。
また、労働組合が存在する会社では、労働協約で懲戒処分を行う前に労働組合と協議することが求められている場合があります。規定に沿った対処をしなければ、訓告処分が無効になるリスクがあります。
4.弁明の機会の提供
訓告処分を行う前には、労働者に弁明の機会を提供してください。弁明の機会を与えないと、訓告処分が無効となる可能性があるためです。
例えば労働者に対して、一定期間内に意見を提出するように求める書面を、渡すことが考えられるでしょう。
なお、仮に弁明の機会において労働者が具体的な意見を述べなくても、訓告処分が有効になるかどうかの観点から、弁明の機会を与えたこと自体が重要です。
5.処分の可否・内容の検討
労働者の問題点を十分に精査してから、最終的に訓戒処分を出すことが適切であるかをチェックしましょう。ポイントは次の通りです。
- 処分を下すために必要な証拠が揃っているか
- 訓戒処分を行うことが相当な対応といえるか
- 同じようなケースにおいて、過去に会社でどのような対応をしたか
口頭での注意で足りるような軽い行為に対して訓戒処分を出すと、その処分は無効になる可能性があります。
なお、何度注意しても改善が見られなかった状態での訓戒処分は有効であると認められやすいといえます。
6.訓告書の交付
すべての検討が終わって、労働者の行為が訓告処分を下すのに適切であると判断した場合、訓告処分に関する書面を作り、労働者に渡します。
訓告書には、次の項目を書きます。
- 訓告処分の事実(懲戒処分の具体的な種類を明示)
- 問題行為の詳細
- 問題行為が該当する就業規則の項目
- 始末書の提出を要求する場合、その旨と提出期限(就業規則で「訓告」が書面による注意と始末書の提出を含む場合だけ。その根拠となる就業規則の項目も書きましょう)
- 問題行為の詳細は調査結果と証拠に基づく事実を書き、行為を具体的に明確化
訓告処分が与える影響
訓告処分が昇進や賞与などに与える影響をまとめました。
昇給・賞与
訓告処分が下された場合、人事部へマイナスの印象を与え、給与増加やボーナスに影響を及ぼすことがあります。通常、訓告処分そのものは退職金の支払いや、給与を直接減らす原因にはなりません。
しかし、訓告処分により昇進が遅れるなどすると、退職金が減ることにつながる可能性があります。なお、実際に減少する金額は事例や企業の対応によって異なります。
昇進・人事評価
訓告処分は公務員法に基づく戒告処分とは異なり、違反行為に対する口頭や書面による注意です。戒告処分した事実は会社内で記録され、会社を辞めるまで影響を持ち続ける可能性があります。
一方、訓告処分は人事記録に登録されないこともあり、その場合は影響が少ないと考えられます。
訓告処分を受けると、当然ながら会社からのパフォーマンス評価の印象が悪くなる可能性があるので、給与の見直しやボーナスの評価、昇進に影響があります。
訓告処分をおこなう際の注意点
訓告処分する際の注意点は、主に2つです。
社内公表について
社内公表は、懲戒処分の公正性を担保するために必要ですが、処分対象の従業員のプライバシーや名誉など権利は、考慮しなければなりません。
実際の現場では、処分を下した日には懲戒処分の対象者や内容を掲示板に貼り、その後引き続きの掲載はしない、処分内容も詳細は記載しない、などの対応をとるケースが多いでしょう。
始末書を提出しない場合
始末書を提出しない場合、下された懲戒処分を無視するということになります。就業規則に定める懲戒事由に該当するとし、より重い懲戒処分を下す検討を行う必要があります。
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【例文有】失敗しない始末書の書き方とは? 書き方のポイント、場面ごとの例文も紹介訓告処分に関する裁判事例
訓告処分の裁判事例を2つ紹介します。
勤務中のお酒の臭い
2011年1月28日の東京地方裁判所の判決では、勤務中のお酒の匂いが原因とした訓告処分が扱われました。この事例の詳細は次の通りです。
JR東日本の助役が、自身が管理者でありながら前日の深夜まで飲酒した結果、多くの職員から酒のにおいを指摘され、帰宅するよう指示されました。
助役は事情聴取時には酒気を帯びていなかった旨主張したものの、その後自身の非を認め、反省の手紙を会社に提出しましたが、訓告処分を受けたうえ、他社への出向を命じられました。その後、当該助役は、訓告処分の無効を確認するためにJR東日本に対して訴訟を起こしました。
これに対し、裁判所は訓告処分を有効であるとしました。理由は次の通りです。
- 助役自身が訓告処分を受ける前に反省の手紙を提出している行動など、さまざまな状況からすると、出勤時点で酒気帯びであったということが問題だと考えられ、その後の欠勤も当該酒気帯びを原因とするものといえること
- 公共交通機関としての社会的責任という間手からすると、飲酒の指摘を受けること自体が職場秩序維持という観点から大いに問題であること
- 事情聴取や反省の手紙などを踏まえて賞罰審査委員会にて慎重に検討したこと
- 訓告は最も軽い罰であるといえること
セクハラについて
2007年7月10日の東京地方裁判所の判決では、あるセクハラケースにおいて、訓告処分の事案が扱われました。事案の詳細は次の通りです。
ある男性職員が女性職員に交際の申し出をし、彼女ははっきりと拒否したにもかかわらず、交際の申し出を繰り返し、彼女を追い詰めるつきまとい行為をしました。この男性職員に対して、金融公庫は訓告処分をしました。しかし、男性職員は訓告処分は無効だと主張し、金融公庫へ訴訟を起こします。
裁判所は、訓告処分を有効だと判断しました。男性職員の上司である支店長の証言を基に、彼が行った交際要求やつきまとい行為が事実であると裁判所が認定したためです。
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訓告処分と同様の内容で、懲戒処分に戒告や厳重注意が存在しますが、企業における訓告処分は最も軽い懲戒処分と位置付けられていることが多いといえます。
就業規則における処分の規定や処分内容、処分が行われるタイミングなど、会社の就業規則をチェックするとよいでしょう。
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