開業とは? 起業との違いや流れ、実施すべき手続きについて解説

現在は企業で勤めているが、収入を増やしたい、自分のやりたいことがあるなどさまざまな理由で開業を考える人がいます。
しかし、開業について、どういった手順を踏めばいいのか分からないという悩みも多いようです。
この記事では開業とは何か、開業するメリット・デメリットとともにその流れを解説します。開業をしてみたいと考えていた人は、これからを具体的にイメージするための参考にしてみてください。
開業とは
開業とは「個人が新しく事業を立ち上げること」です。たとえば以下のものは全て開業に当てはまります。
- 会社員が独立して法人を立ち上げる
- これまで組織や団体に従事していた人が個人事業主として活動する
- 士業(会計士、税理士、医師)などの有資格者が個人で事務所を開く
開業と似た言葉との違い
開業と似た言葉で起業・創業・独立があります。
これらを混同している方も見られますが、実は少しずつ意味が異なります。
よく耳にする言葉なので、事業を経営している・したいと思っている方は違いがわかるようにしておきましょう。
また、法人の開業手続きについてはこちらの記事でもまとめていますので、参考にしてください。
開業と起業の違い
開業も起業も「事業を開始する」という意味では同じです。
ただし、起業は「新しく事業を開く、新規事業を起こす」というニュアンスを強く持ちます。
「起業」は独自の技術やサービスを提供する事業を立ち上げるときに使われます。そのサービスが既存のものであっても、その人や企業にとって新しければ「起業」で問題ありません。
一方、開業の場合は、開くという言葉から店舗の開店に使われることが多いです。「店舗を起業する」とはあまり言いません。
開業と創業の違い
創業も「事業を立ち上げること」という意味ですが、開業よりも言葉の範囲が広くなります。
創業は、「継続的に事業を開始し始めた」タイミングとなり、開業の前に行われる資金調達やリサーチ業務なども範囲に含まれます。
文脈で言えば、開業は現在・未来の話に用いられ、創業は過去の話をする際に使用されることが多いです。
たとえば、「創業30周年」や「創業50年」など「会社を立ち上げて何年経過したか」といったことです。未来に対して使うことはほとんどありません。
開業と独立の違い
独立は、「組織にいた人が、組織を出て自ら事業を営むこと」です。
今まで勤めていた企業をやめ、自分の力で生計を立てることをいいます。「開業」と合わせて「独立開業」と表現することもあります。
もともと会社や組織に属していない人が新しく事業を始める場合や、組織に勤めながら副業として開業する場合は独立とは呼びません。
開業するまでの流れ
開業するためには、最終的に「開業届」や「法人設立届書」などの必要書類の提出・手続きをします。
フリーランスのエンジニアやライターなど、開業資金をほとんど必要としない業種の場合は別ですが、店舗や事務所を構えるような場合には融資で開業資金を準備する方もいるでしょう。
その場合の一般的な開業の流れは以下になります。
- 事業計画を立てる・事業計画書の作成
- 接客業などの場合は物件を探す
- 開業資金・物品の準備
- 開業に必要な書類手続き・届出
今回は、開業資金の準備を想定した開業までの流れを解説します。
1.事業計画を立てる・事業計画書の作成
まずは事業計画書を作成しましょう。事業計画書は「創業者の夢を実現するための具体的な行動を示す計画書」です。
金融機関や投資家などに提示して資金調達を行う際に、自分の事業を他人にわかりやすく理解してもらうための指標となります。
記載すべき内容の例は、以下のとおりです。
- 事業の内容
- 競合や市場規模
- 販売戦略やビジネスモデル
- 財務計画
- 自社の強みや弱みなどの現況
事業計画書の書き方は細かく定められているわけではありません。「どんなことを書いたらいいのかわからない」という方は、以下の事業計画書作成の記事を参考にしてください。
また、ビズオーシャンでは事業計画書の無料のテンプレートも用意しているので、早速事業計画書を作ろう!とお考えの方はご利用ください。
2.接客業などの場合は物件を探す
店舗を構えて接客業を営みたいと考えている場合は、物件選びも欠かせません。
物件選びでは、以下を意識してみましょう。
- 日ごろから物件をチェックしておく
- 家賃は売上の7〜10%を目安にする
- 客層やコンセプトに合うかを考える
- 時間に余裕をもって根気強く行う
物件情報は日々変わるため、毎日チェックすることがおすすめです。
また、材料費や人件費、建物の修繕費などが問題なく支払えるよう、家賃は売上の7〜10%以内に抑えておくとよいでしょう。
物件選びでは立地も重要です。単に人通りが多いところが良いとは限りません。
「好立地」の条件には、自社が行いたいサービスのターゲット層が利用しているか、街と開業する店の雰囲気がマッチしているかなども含まれます。
こうした要素をもれなく満たせる物件を見つけるためにも、早めに物件探しを始めることがおすすめです。
3.開業資金・物品の準備
事業を始めるには、開業資金と物品の準備が必要です。
日本政策金融公庫 総合研究所が行った「2023年度新規開業実態調査」によると、開業費用の平均値は1,027万円、中央値は550万円であり、開業のためにはある程度の金額が必要なことがわかります。
開業費用を自己資金だけで賄うことが難しい場合には、資金調達をする必要があります。
金融機関から融資を受ける方法が一般的ですが、近年ではクラウドファンディングの活用も増えてきました。
申請から時間はかかりますが、助成金を活用して支援金を得る方法もあります。
開業に必要な物品は、事業に必要な器具だけでなく、デスク、事務用品などのオフィス備品もあり、それらも含めて開業資金を計算するようにしましょう。
詳しく知りたいという方は以下の記事もご覧ください。
4.開業に必要な書類手続き・届出
開業資金を準備したら、次は開始する事業に関する各種届出を記入します。必要な手続きの例は、以下のとおりです。
書類・届出の種類 |
提出すべき人・状況 |
提出期限 |
提出先 |
---|---|---|---|
開業届 |
個人事業主として開業する人 |
事業を始めた日から1ヶ月以内 |
所轄の税務署 |
法人設立届出書 |
法人を設立して開業する人 |
法人設立から2ヶ月以内 |
法人の所在地を管轄する税務署 |
所得税の青色申告承認申請書 |
確定申告で青色申告を行いたい個人事業主・法人 |
事業を始めた日から2ヶ月以内 |
所轄の税務署 |
もし、提出する書類が不明な場合は、同じ業種で開業したことのある人に聞いたり、提出先の税務署に相談したりするといいでしょう。
開業届に関してはこちらの記事でまとめていますので、参考にしてください。
開業するメリット
開業届を提出して開業することには、以下のようなメリットがあります。
- 青色申告で確定申告できる
- 小規模企業共済に加入でき節税効果が見込める
青色申告で確定申告できる
開業するメリットで大きなものは青色申告で確定申告ができることです。
青色申告での確定申告によって最大65万円の特別控除を受けることができます。
特別控除を受けるための条件は以下の通りです。
- 複式簿記による記帳
- 貸借対照表・損益計算書の添付
- 期限内に申告
- e-Taxを利用、もしくは優良な電子帳簿保存を利用
参考:e-Taxによる申告又は優良な電子帳簿の保存により65万円の青色申告特別控除を適用しましょう!
また、青色申告には3年間は赤字を繰越すことができる「純損失の繰越控除」や、家族に支払う給与を全額、経費として算入できる「青色事業専従者給与」などの恩恵があります。
小規模企業共済に加入でき節税効果が見込める
小規模企業共済は、個人事業主や経営者のための退職金制度です。
廃業や引退した際に、それまでに積み立てた金額を共済金として受け取ることができる保険です。
掛け金は月額1,000~70,000円まで幅広く選択でき、その全額が所得控除の対象となるので節税効果があります。
なにより将来にまとまった金額を受け取れる安心感があるため、より積極的に事業に取り組めるでしょう。
加入資格は、従業員数が20人以下の会社の経営者や個人事業主であることです。
ただし、卸売業・小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業を含まない)の場合は、従業員数が5人以下であることなど要件があるため注意が必要です。
開業するデメリット
一方、開業をすることには以下のようなデメリットもあります。
- 失業保険は受給できない
- 扶養の条件を確認しておく
失業保険は受給できない
開業届を提出すると失業保険は受給できません。
失業保険は失業した方の再就職をサポートするもので、すぐに個人事業主として働ける方は対象外となります。
ただし、失業後求職活動を行いながら開業届は出さずに開業の準備や検討をするのであれば、その期間に受給することはできます。
また、開業届を提出していても受け取ることができる「再就職手当」といったものもあります。
こちらは失業した後、早期に再就職をした際にもらえる手当であり、開業した場合も支給対象です。
参考:https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/saishuushokuteate.pdf
扶養の条件を確認しておく
扶養には2種類あります。「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」です。
税法上の扶養は、開業の有無にかかわらず、所得が48万円以下(給与収入なら年間103万)であるかどうかが、扶養に入れるかどうかを左右します。
難しいのは、社会保険上の扶養です。配偶者の加入している健康保険組合によって扶養条件が細かく線引きされており、所得額で決められている組合もあれば、「個人事業主は所得関係なしに扶養に入れない」と決まっている組合もあります。
もし、扶養に入れないとなった場合は、国民健康保険に加入する必要があります。
開業届を提出する前に扶養の条件を確認しておくと、後から慌てることもないでしょう。
開業までに実施すべき手続き
事業を開業するまでに準備しておくべき手続きは以下の2つです。
- 国民健康保険・国民年金への加入
- 税務関連書類の提出
国民健康保険・国民年金への加入
会社員が会社を辞めてから独立開業する場合、以前まで加入していた会社の健康保険や厚生年金を脱退した後に、国民健康保険や国民年金に加入します。
健康保険料の料率は、前年度の年収に応じて増減します。独立した翌年の年収が会社員時代より下がってしまった場合、予想以上の保険料の請求に驚く方もいるようです。
保険料率は各市区町村によって異なるため、気になる方はお住まいの地域の役所の窓口やWebサイトなどで確認しましょう。
また、国民年金は厚生年金よりも支給金額が少ないため、個人事業主やフリーランスは、自身の将来設計についても考えておきたいものです。
個人年金の加入、積立投資を活用されている方も多いです。その場合には、NISAやiDeCoといった運用益が非課税になっている制度もあるので検討してみましょう。
税務関連書類の提出
開業に際して必要な、以下のような税務関係の書類を提出します。
- 開業届
- 青色申告承認申請書
- 青色事業専従事者給与に関する届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する承認
個人事業主の場合は事業によって提出が不要な書類もあります。
たとえば、自分のみで事業を行う場合は「青色事業専従事者給与に関する届出書」を提出する義務はありません。家族が事業関係で給与を受け取る際に必要となる書類で、事業を一人で行う場合は、給与を渡す相手がいないため提出する必要がないのです。
どの書類を提出すればいいかわからないという場合は、最寄りの税務署で相談するのがおすすめです。
開業についてのまとめ
開業は個人が事業を始めることであり、起業、創業、独立とも少し意味が異なります。
開業のメリットは青色申告や小規模企業共済などの税の優遇制度があるところですが、一方で失業保険や扶養から外れるなどのデメリットもあります。
それらをしっかりと比較検討した上で、できるだけ十分な開業資金を調達して開業の準備をしましょう。
開業時は慣れない書類の提出で骨が折れることもありますが、事業を一から自分で作り上げられる充足感を得られます。
周りの事業仲間に相談したり公的機関を積極的に活用したりすることで不明点を解消しながら準備していきましょう。